新たな依頼
そこに、ノックの音がした。
「どうぞ」
ルーチェが応える。
「お邪魔します、ルーチェさん」
ドアを抜けてきたのは、横に細長いメガネをかけ、整えられた口ひげを生やした男性だった。薄い灰色の上下のスーツを身にまとっていた。男性は一歩部屋に入ったところで、頭を下げた。黄色いネクタイだけがぶらりと揺れていた。
顔をあげてから口元をほころばせた。
「ルーチェさん。お元気になられたようで。良かったです」
「ポラーレか。どうしたの?」
「これはこれは。元気になられたとお聞きしたので、お見舞いにきました」
ポラーレは笑顔を崩さずに部屋の中を進んできた。アナリズはポラーレが通れるようにベッドの頭側へと静かに移動した。ポラーレは小さく頭を下げつつ、脇を通り抜けた。そのまま、オリチェが座っていたイスの横まで来た。
「オリチェさん」
「は、はい?」
自分が呼ばれるとは思っていなかったオリチェがビクリと身体を震わせ、ポラーレの方に顔を向けた。ポラーレは身を屈めることなく、しかし、柔和な表情を崩さずにオリチェに声をかけた。
「マスターが下で呼んでいましたよ。一度、顔を見せてこられてはどうですか?」
「えっ? マスターがですか?」
言われたオリチェがイスから跳びあがった。
「る、ルーチェさん。オリチェ行ってきますね。お店大変なのかもしれないし」
「私は大丈夫だから。オリチェ行ってきて」
はい、という返事とともにオリチェは部屋から走り去っていった。三人はその姿を見送った。
「ポラーレ」
「はい」
「ありがとう。助けてくれたみたいで」
ルーチェが頭を下げる。それを見ていたポラーレはさっきまでオリチェが座っていたイスに腰かけた。
「失礼しますね。ルーチェさん。こちらは何もしていませんよ。したことといえば、アルテファットの技師を連れてきただけです。右腕、傷だらけでしたので」
そういってポラーレは首を横に振った。そして、ルーチェの右腕に視線を向けた。ルーチェは左手で右腕をそっと撫でる。
「それに、アルテファット以外の傷もひどいものになっていました。そちらの治療も合わせてしてもらいました。ですので、身体の方は大丈夫だと思いますが……いかがですか?」
「ああ。少しずつ動かせるようになってきた」
そこまで言ってルーチェが右腕を前に伸ばす。血色は相変わらず悪いままだった。
「自分で動かす分には痛みはない。今はアルテファットがいちばん動かすのに不自由していない」
「そうですか。それならよかったです。ルーチェさんの治療にあたった技師はなかなかの腕の持ち主でして。動きや痛みなど問題がないのであれば、それに越したことはありませんので。こちらとしても喜ばしい限りです」
口角を上げた表情でポラーレはルーチェの右手を握った。握られたルーチェの右手に赤みがさしていった。それと同時にルーチェの顔は少しずつ歪んでいった。




