動けるようになって 3
ひと際声を大きくして、オリチェがルーチェの肩をつかんできた。その力にルーチェは小さく顔をしかめる。
「オリチェ。ルーチェさんが起きてこなかったらどうしようってずっと不安でした! 今は座ってられるようになったから良かったけど、またおんなじようなことになったら、オリチェは……オリチェは……」
徐々に小さくなっていったオリチェの声。オリチェの両手がルーチェの身体に回された。そして、ギュッと抱きしめられた。オリチェの身体からルーチェへと温もりが伝わってきていた。ルーチェは両手が塞がってしまっていて、オリチェに何も返すことができないでいる。ただ、じっとオリチェの背中を見続けている。
その背中が小刻みに震え始めた。小さな嗚咽が耳に届く。
「……オリチェ」
「うっ……ぐすっ……」
アナリズが一歩、オリチェへと近づいてきたがルーチェは首を横に振ってそれを制する。アナリズは音を立てることなく、静かに足を引っ込めた。
「ご、ごめん、なさい……」
オリチェが身体を離しながら、少し震える声で謝ってきた。ルーチェは自由になった左手でオリチェの頭に触れる。オリチェのツインテールを崩さないようにそっと流れに沿って頭を撫でる。
「心配してくれたんだ……嬉しいよ。ありがとう」
ささやくようにしてオリチェに話しかけるルーチェ。
「ごめんなさい……ごめん、なさい……」
何度も謝り続けてきたオリチェ。ルーチェはその度に、うん、うんと声をかけ続ける。
やがて、嗚咽は小さくなり、おさまっていった。オリチェはルーチェから離れてイスへと戻っていった。
「少し……落ち着いた?」
オリチェの様子を見ながら、静かにたずねるルーチェ。それからルーチェはオリチェに自分の使っていたコップを渡す。
「私が使ったもので悪いけど、お水でも飲んで落ち着いて」
オリチェは何も言わずにコップを受け取った。自らの手でデキャンタから水を注ぎ、そのまま半分ほど飲む。ふぅと息をついてからルーチェへと視線を戻したオリチェ。
「はい……ありがとうございます。オリチェ、今新しいコップ持ってきます」
そう言って立ち上がろうとしたオリチェ。それを見たルーチェは、いいよ、と声をかける。
「大丈夫だから」
「ぼ、僕が持ってきましょうか?」
アナリズがおずおずと声をかけてきた。ルーチェは首を横に振る。
「あとでいい。それより、オリチェに話をして少し整理できた気がする。これからどうしたらいいのか……それはわからないけどね」
ルーチェは言って、右腕で左腕を支えるようにして腕を組む。視線はアナリズへと向けたまま。
「ぼ、僕が探しているリィカトーレの行方を知っているはずなのがピディーグ博士。その博士を連れて行ったのが、黒い獣とマレディと呼ぶのが正しい女性。そういうことですよね?」
アナリズが状況を簡単にまとめて話した。
「それで間違いない。姉さんを追うにしても、リィカトーレさんを追うにしても、引っかかってくるのはあのマレディという女の人。今のところ、どっちの線の上にもいるのはこの人だけ」
「でも、そのマレディって人はいったいどこにいるんですか? オリチェ。聞いている限り手がかりは何にもない様に思うんですけど……」
「そうね……完全に手詰まりか。闇雲に探すわけにもいかない……」
三人は押し黙った。
誰も何の言葉も見つけられなかった。




