動けるようになって 2
「る、ルーチェさん?」
オリチェが音を聞いて声をかけてきた。ルーチェはそれを無視して、コップ一杯の水を一気に飲み干す。
「ふぅ。オリチェ」
「は、はい」
「姉さんは見つかってない」
息を整えたルーチェが、ゆっくりと告げる。
「はいっ?」
オリチェの口から何かが抜けていったような声が出てきた。メガネの向こうで見開かれた目はルーチェをじっと見てきていた。ルーチェは黙ってデキャンタに手を伸ばし、水をコップに注ぐ。
少しだけ水を含むルーチェ。ゆっくりと飲み下してから口を開く。
ルーチェはオリチェにマレディのことでわかっていることを話す。
「……えっと。オリチェ、こんがらがってきたんですけど……要はその人はルーチェさんのお姉さんじゃないってことですか?」
オリチェがイスに腰を下ろし小首を傾げながら、ルーチェにたずねていた。ルーチェの方は目線を右下に向けたまま、口を開く。
「私とアナリズがファーマエンダの研究所で会った姉さんは姿が違っていた。でもそれよりも、気になったのが自分の名前に様をつけていたこと。わざわざ自分の名前を名乗るのに、様なんてつける?」
「そんな人……いませんよ。変な人って言われます」
「……そう。だけど、もう一つ気になったのが……」
「…………ノート、ですよね?」
イスをオリチェに譲ったアナリズは立ったまま話を聞いていた。そのアナリズが口を開いた。ルーチェはアナリズの方を一瞥して首肯する。視線はオリチェに戻している。
「そう、ね。あの女、多分資料の女だとしたら、マレディなんだけど。彼女、会話に詰まった時にノートを取りだしていた」
ルーチェがコップを持ったまま、手で大きさをオリチェに示す。手の平よりも少し大きな形。
「中身を見て、それから何かを書き込んでいた。それが何かはわからない。ただ、それが記憶に関してのことだとしたら——」
「あのマレディという人が、実はリナシッタさんで記憶を失っているかもしれない……そういうことですか?」
アナリズがルーチェの後を継いで、考えを伝えた。それを聞いていたルーチェは再び頷く。
「あくまで可能性……だけどね」
「る、ルーチェさんはどうするんですか!? オリチェだったら、その人、追いかけますけど!」
オリチェがイスから立ち上がって問い質してきた。その姿を見上げているルーチェは、わずかに身体を後ろにのけ反らせながら、静かに答える。
「追うわ。どっちにしても手がかりは彼女しかいないから」
「そう、ですよね。オリチェに止める権利なんかありません。でも!」




