どこへ向かうのか
「す、すいません。痛みますよね。オリチェさんを呼びますか? マスターはさっき出かけると言っていたので、いないですが」
「……いい。それより、どうしてあんなことをした?」
アナリズが幾度目か謝ろうとしたが、ルーチェは首を横に振って止め、話を促す。
「僕には見つけられなかったリィカトーレという人の情報。ピディーグ博士と接触したことは調べて分かったんですが、その後一切の手がかりがなくて。ピディーグ博士も知っているような口ぶりでしたが、何も教えてもらえませんでした」
そこで言葉を切ったアナリズ。息を吐き出し、再び話しだした。
「唯一の手がかりだったピディーグ博士が連れ去られてしまい、正直僕はどうすればいいかわからなくなってました。そんな時にルーチェさんが覚えているかもしれない、そう言ってくれたので思わず……」
「……はぁ」
ルーチェの口からため息にも似た長い吐息が漏れる。寝たままの姿勢でそれは盛大な大きさになった。アナリズはルーチェと視線を合わせず、しかし、顔は向けたまま静かにしていた。
「さっきも言ったけど、ついさっき目が覚めた。だから、いきなり思い出せと言われても無理だ。少し待って」
「わかりました。すいません……」
謝ってからアナリズはイスのところへと戻っていった。ドカリと腰を下ろすと、イスから小さく軋んだ音がした。下を向いたままのアナリズはそのまま動かなくなった。
ルーチェもまた、天井へと視線をむける。見慣れた照明がぶら下がり、オレンジ色の光を放っていた。
「……ルーチェさん。聞いてもいいですか?」
くぐもったアナリズの声がルーチェの耳に届いた。その声に反応せず、じっと照明を見続けるルーチェ。
「傷が治ったら、どうするつもりなんですか?」
返事を待たずに問いかけてきたアナリズ。目だけでアナリズを確認するルーチェ。姿勢は変わらず、顔もあげる様子すらなかった。下を向いたまま、アナリズはルーチェに声をかけてきていた。
一度、目を閉じたルーチェは視線を天井へと向ける。溜まっていたものを吐き出すようにため息をもらす。
「……私は姉さんを追う。それだけ」
端的に答えたルーチェ。その言葉は天井にぶつかって霧散していった。ルーチェの言葉に反応したのか、アナリズの方から物音が聞こえた。視界の端に人影が入り込んできた。
「お姉さん、ですか……どこにいるのか、つかめているんですか?」
「わからない。ただ……」
そこまで言って、口を閉ざすルーチェ。視線は照明に向けたままになっていた。
「ただ……なんですか?」
「手がかりはある……」




