目が覚めて 6
息をゆっくりと吐きながら、静かな声でルーチェが話す。
「……マレディっていう、姉さんに似た女がした?」
「それについてはわかりません。ただ、爪を伸ばした男は致命傷がない状態で死亡していたそうです。ルーチェさんたちが負わせた傷はありましたが、いずれも致命傷と言えるものではなかったそうです。ですので、ルーチェさんは容疑者という扱いではないみたいです。なので、今、警察が死因を調べているそうです」
「……そう。それで侵入した理由の方はなんて話したの? 警備課の方は止められたから倒しただけ。ケガは負わせたけどね。話は合わせておいた方がいいでしょう?」
ルーチェは顔をあげてアナリズの方を見る。すると、アナリズの方が今度は項垂れていた。視線を外し、足元をじっと見ていた。
「それについては、僕を捜すため、と話してあります。僕の方はピディーグ博士に会うためと説明しました」
「……わかった……アナリズ」
「はい……」
返事をして、アナリズが顔をあげた。ただ、顔をあげただけで、左目はルーチェを見てはいなかった。どこを見ているのか、ぼんやりと視線をさまよわせていた。
「どうして、ピディーグ博士に会いに行ったのか。それを教えて」
目を合わせないアナリズに向かって、ルーチェはじっと目を向ける。アナリズの右手がピクリと動いた。その動きもルーチェの目は捉えている。ただ、黙ってアナリズの様子を見ている。
アナリズが窓の方へと向いた。ルーチェにとって背を向けた形になった。
「…………捜す……です」
「えっ?」
背を向けたアナリズから声が聞こえる。しかし、アナリズの声は彼自身の身体が壁になって、ハッキリと聞き取ることができない。ルーチェのたずね返した声だけが残った。その声にアナリズの身体は大きく反応を示していた。背中からビクリと震え、じっと窓の方を見たまま動かなくなった。
「アナリズ」
「は、はい……」
今にも消え入りそうなほどか細い声で答えたアナリズ。
「もう一度、言ってほしい。なんて、言った?」
ルーチェの声は、ゆっくりと柔らかく届けられた。アナリズは最初、まったく反応を示さなかった。それでもルーチェはじっと待つ。動かせない身体で、視線だけをアナリズへと向けて。
アナリズが肩越しにルーチェへと顔を向けた。
「ある人を……捜すため、です」
ゆっくりと言葉を紡いだアナリズ。
「ある人?」
「……はい」
「それはいったい……」
そこでアナリズを見たルーチェは口を閉ざす。アナリズもまた、唇を真一文字に引き結んでいた。その唇がわずかに内側に入り込み、開かれていった。
「リィカトーレという人物を捜しています」




