第142話 本当の色
丁子茶が倒れ込んだのは、会場向かって右側一階の廊下だった。自分の正面には檜皮と衛生部の生徒たちがその場に伏せて頭を抱える光景が見えている。どうやらこちら側に避難した者は皆無事らしい。
「大丈夫……?」
誰かが自分に声を掛けている。丁子茶は上体を起こし、声を掛けてきた隣の人物に目をやった。焦茶が廊下に座り込み、こちらを見ながら体に付いた埃を払っている。
「ええ。そっちは?」
「何とか」
焦茶の答えを聞いて、丁子茶も服に付いた埃を手で払った。今日もかなりイケてる格好をしてきたのに、これじゃあ台無しじゃないか。今鏡が手元にないからわからないけど、きっと髪も化粧も相当崩れているに違いない。
「って、そんなこと考えてる場合じゃないわね……」
「え、なんだって?」
丁子茶は颯爽と立ち上がると、たった今逃げて来た会場の扉へと向かう。会場の中に続く木製の扉は大きく開きっぱなしで、中からは細かな埃が舞い出ていた。
丁子茶が会場を覗き込もうとすると、焦茶も彼の後に続いてくる。
「ちょ、近い」丁子茶が焦茶を振り返って睨んだ。
「俺だって中気になるもの」
「だからって近すぎるわっ」
「だって近づかなきゃ見えないでしょっ」
「ああもう今痴話喧嘩してる場合じゃないからっ……!」
そう言って丁子茶が会場を覗き、焦茶も丁子茶の後ろから中を確認する。
会場はもわんとした埃が舞っているものの、ステージや床が粉々になったり、天井が剥がれ落ちている、なんてことはなかった。
ただしステージ上にあったはずの橙色の光を放つ鳥籠は一切消え去り、辺りはとにかくしんと静まり返っている。
「お二人は、大丈夫ですか……?怪我とか、していません……?」
そう声を掛けられ焦茶が後ろを振り向くと、衛生部の檜皮がよろよろと立ってこちらを見上げていた。さすが衛生部教師、我々の体を心配してくれている。檜皮の背後では衛生部員たちも体を起こして互いを気遣う様子が見えた。
「先生、何がいったい、どうなったんですか……?」
衛生部員のヘンナが檜皮の背後に近づく。彼女の隣には自らの髪を指で梳かすトパーズも、ふらふらとしながらやって来た。
「えっと、それが……」
焦茶が檜皮と顔を見合わせた時だった。
「何、あれ」
丁子茶の声にその場の全員が彼の視線の先を追う。
丁子茶が見ていたのは、今自分たちが立っている場所から見て、正面右側の大きな光だった。光は一階ステージの奥と二階にせり出した観客席のちょうど間付近にあり、大きさは一階の床から二階天井付近まで丸く広がっている。
ん……?檜皮は目をゴシゴシと手で擦った。
埃でぼやけているのか、廊下に倒れ込んだ衝撃のせいか、目の前の巨大な光が何なのか今一ピンと来ない。
しかし光の正体に気づいた丁子茶は息を吞むと走り出し、焦茶、檜皮、ヘンナ、トパーズも彼の後に続いた。
彼らが舞い散る埃の中を進んでいくと、光の正体ははっきりとしてきた。それは壁に空いた大きな穴だったのだ。光は外から屋内に入り込む太陽光で、闘技場の中を明るく照らしている。
丁子茶たちがその穴に近づくと、穴の手前には先客がいた。黒茶、煙草、雀の三人が巨大な穴の縁から上空を見上げていたのだ。
「先生方、無事っ⁈」丁子茶が黒茶と煙草の背中に声を掛ける。
「雀、大丈夫⁈」ヘンナとトパーズも友人に駆け寄った。
「まあな」煙草が丁子茶たちを振り返る。
「大丈夫……」雀も友人たちに無事を報告した。
「いったいこの穴何なの⁈」と、丁子茶。
穴からは外の地面に建つ戦闘部の校舎や施設が見渡せ、空からは橙色の夕日が降り注いでいる。
「鳥籠が壊れた衝撃で出来たとか……?」
焦茶が穴の縁を見回して言った。穴の縁はギザギザと尖って決して滑らかではなく、いつ崩れてきてもおかしくない形相だった。
「いや、それだけじゃねえな」煙草が答える。
「じゃあいったい……!」
丁子茶が言いかけるのを、黒茶が遮る。
「あれに決まっておろうが」黒茶は穴の外の上空を顎で指し示した。
丁子茶たちは黒茶が示した方向を見上げると、口を大きく開け放った。
丁子茶たちが闘技場内にできた巨大な穴に走り向かう少し前、同じく場内の二階観客席ではコチニール、葡萄、緋色、柑子、マルーン、ビスタ、ラセットの七人が座席の下にしゃがみ込んで各々頭を両手でかばっていた。
チェスナットや煤竹がこの場から避難するよう指示して、彼らもそれに従おうとしたのだがその前に視界が真っ白になり、七人は思わずその場にしゃがみ身を守る行動を取っていたのだ。
けれどいつしか光は薄れ視界は元に戻り、辺りは全くの無音に包まれている。
コチニールたちは頭から手を離し、周囲をきょろきょろと見回すと、その場からゆっくり立ち上がった。
二階観客席は特に被害がなく、所々で自分たちと同じようにしゃがみ込んでいる生徒たちの姿が見える。
ただし一階はというと、ステージ上にあったはずの鳥籠は姿を消し、ステージに向かって左側の壁にはやけに巨大な穴がぽっかりと開いていた。
「何あれ⁈」緋色が穴を指差して叫ぶ。
「あ、穴開いてんじゃん……!」と、ビスタ。
「い、いったい、これは、何が、どうなって……⁈」葡萄は眼鏡を何度も上げ下げする。
マルーンは隣に呆然と立つ柑子を気遣っていた。
「大丈夫ですか、殿下……⁈」
「う、うん……」柑子は何とかそれだけ答えると辺りを見渡す。
自分は夢でも見ていたのだろうか?マゼンタさんとマロウ殿下が、戦っていたような気がしたけど……
しかし柑子のそれは勿論夢ではない。一階のステージを見下ろしていたコチニールが、
「マゼンタと、マロウ王子は……?」と呟くと、彼らの意識が急激に現在の状況へと引き戻された。
「そういえばどこ行った⁈」緋色が忙しなく首を振る。
「ステージにいないってことは、外に出たってことだよなっ⁈」ビスタだ。
その時、どこからともなく男子生徒たちのざわめく声が聞こえてきて、コチニールたちは彼らがいる方向に顔を向けた。彼らは二階左側最後尾の観客席の後ろに立ち、背後にはめ込まれた窓から上空を見上げて何やら騒いでいる。
「なんだ……?」と、ラセット。
コチニールたちは彼らがいる左側最後尾の窓へと向かった。他の生徒たちも騒ぎに気づいて立ち上がり、同じ方向へと歩き始める。その中には、鳥籠が破壊される直前まで生徒を避難誘導していたチェスナットや煤竹、茶鼠学長の姿もあった。
コチニールたちが最後尾の窓に近づき、騒ぐ男子生徒たち同様上空を見上げる。
「いったい何を騒いで……」ビスタが言いかけて言葉を失った。
だが言葉を失ったのはビスタだけではない。その場の全員、教師陣も漏れなく何も言えなくなってしまったのだ。彼らは一様に窓から上空を見上げ、自らの口を呆けさせることしか出来ない。
「な……な……」柑子が言葉にならない声を発し、コチニール、葡萄、緋色の三人は目を見開いて息を吞む。
まさか、また、こんなことになってしまうとは……!
彼らの視線の先には、上空に浮かぶマゼンタの姿があった。彼女は何も掴まず、何も道具を使用せず、ただ生身のままで空中に浮かんでいる。しかもマゼンタは一人ではなかった。彼女の向かい側にはマロウ王子もいたのだが、その彼も生身のまま宙に浮かび、マゼンタと対峙していたのだ。二人は鳥籠の中であんなに激しく戦っていたにも関わらず、特に大きな怪我を負っている様子はない。
「マゼンタ……?マロウ王子……?」コチニールが呆然と二人の名を呟いた。
「ど、どうして、色光になってねえのに、浮いて……」
ビスタがカラカラに乾いた口で、何とか疑問を提示した。
その頃、闘技場に開いた巨大な穴の一階部分から、丁子茶たち一行も上空のマゼンタとマロウ王子を見上げていた。彼らは皆口を開けっ放しの状態だったが、雀がビスタと同じ疑問を呟く。
「どうして、色光になってないのに、浮いてるの……?」
「そ、そう言われれば、なんで……⁈」と、雀の背後に立つヘンナ。
雀の疑問を耳にした煙草は自らの指を無精ひげの生えた顎に当てると、無意識のうちにジャリジャリと撫で回す。
もし色光に変身していれば背中の翼を利用して、空を飛んだり滞空したりすることは可能だ。なのに奴らは色光にならずとも宙に浮いている。これはいったい、どういう仕組みなのか……
「紫人だからだろう」
雀や煙草の疑問に答えたのは黒茶だった。が、思ってもみない回答に全員が彼へ注目する。
「紫人だと、生身で飛べるってこと……?」丁子茶が唖然としつつ黒茶に尋ねた。
「以前そんな話を聞いたことがある」
「でもそれだと、赤星の彼女が飛べる説明には……」焦茶がそこまで口にして、はたとした。焦茶だけではない。他の人間も次々と豆鉄砲を食らったような顔になる。
まさか……!彼らの視線が宙に浮かぶマゼンタのほうへと移った。
赤星から来た少女は、実は赤人ではなかったのか……⁈
彼らの脳に衝撃の真実が渦巻いた。
同様に、二階左側最後尾観客席の後ろに集まったコチニールたちの元にも、回答は突き付けられていた。
「紫人だからじゃないのか?」
煤竹が窓の外に浮かぶマゼンタを見上げながら、さも当然の如く呟いた。
「む、紫人って、だって、アイツは赤人で……!」ビスタの瞳が細かく揺れる。ビスタの隣に立つラセットも、こくこくと必死にうなずいた。
「確かに、紫人ならば色光にならなくても飛行出来る、と聞いたことがありますなぁ……」茶鼠学長が呆然としつつも煤竹に同意した。
「そ、そうなのっ⁈」ビスタとラセットの声が揃う。
色光に変身しなくても飛べる⁈そんなことが可能だなんて聞いてねえっ‼
ビスタとラセットは共に驚愕の表情でのけぞっていたが、ふと何かに気づいて二人同時に茶鼠学長から視線を外した。
「てか、おまえら、知ってただろ……!」ビスタが歯軋りしながら吐き捨てる。
ビスタとラセットの視線の先にいたのは、言わずもがなコチニール、葡萄、緋色の三人だった。三人は何とも形容し難い顔で、ひたすら目を泳がせている。
「緋色……」
柑子も友人の名を消え入りそうな声で呼び、マルーンは密偵としてどこまでマゼンタのことを知っているのか、緋色たち三人をじっと見つめていた。
「えっと、それは……」
コチニールが何かを言いかけようとしたその時、
「まあ、バレちまったもんはしょーがない!」緋色が勢いよく顔を上げる。
「ちょ、緋色……!」
コチニールが少年を止めに入ろうとするも、時既に遅しだ。
「別に隠してたワケじゃねーよ!ただマゼンタが記憶喪失でどっから来たのかもわかんなくて、でもクリムスン家に引き取られてコチニールたちと兄妹になったから、兄が赤人で妹が紫人だと都合が悪いとか何とかで、オレたちはみんな赤人のほうがここではいいだろうって話になって!」
緋色が真相をまくしたて、周囲の人間は色々な意味で愕然とした。真相を知らなかった者は当然彼女が記憶喪失でコチニールとは実の兄妹でないことに驚きを隠せなかったし、真相を知っていた者も緋色が全てぶちまけたことに言葉を失ったのだ。
「でも、どうして……」
柑子王子がぽつり呟いて、緋色が彼を見上げる。
「ん?」
「どうして、マゼンタさんが、紫人だって、わかったの……?」
「あー、だからそれが赤星武闘大会の話に繋がってくるんだよ」
緋色が両手を自らの腰に当て、やけに自信たっぷりに話し始めた。
同じ頃、コチニールたちがいる闘技場の階下、即ち巨大な穴の一階部分では、黒茶が宙に浮かぶ紫星の王子を眺めてさらなる疑問を投げかける。
「そんなことより、あの紫星の王子はさっきまで鳥籠の中で戦っていた人間と同一人物なんだろうか」
「えっ……⁈」
黒茶のとんでもない指摘に、丁子茶たち一行はマゼンタからマロウ王子に視線を移した。
穴の外の上空に浮かぶマゼンタとマロウ王子は橙色の夕日に照らされ、本来の色がはっきりと認識出来るわけではない。それでもマロウ王子のほうは確かに黒茶が言う通り、いつもより髪が紫がかっているように見える。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って、別人てこと……?」丁子茶がまたも黒茶に尋ねた。
「いや、別人ではないだろう」
「なるほど、そういうことか」と、何かに気づいた煙草。
「そういうことって、どういうことよっ⁈」丁子茶だ。
「だから徐々に変化したってことだ、何らかの方法を使って」
「はあっ⁈」
煙草は自分に詰め寄る丁子茶から上空の王子に顔を向けた。そしてマロウ王子が初めて色光に変身した時のことを脳内で思い返す。
あの時、巨大な色光の全身から漂う色は、陽炎のようにぶれていた。それは恐らく本人の持つ色が何らかの形で、強制的に変えられていたからだろう。鳥籠での試合中に感じた違和感も、彼の持つ色が変化していたためと考えれば辻褄が合う。
「でも、マロウ王子が、色を変えていたとして、これからマゼンタと、何をする気なんでしょうか……」
不安げな雀が、当然の疑問をぽつりと口にした。
闘技場の全員から視線をいっせいに浴びる当の二人は、互いを見たまま微動だにしなかった。
鳥籠内での戦い、即ち卒業試験実技科目はまだ決着がついていない。丁子茶はもう充分だと何度も叫んでいたが、納得がいっていないのは赤紫色の少女も紫星の王子も同じだ。だから鳥籠を飛び出し、勿論闘技場の壁に大穴を開けるつもりは毛頭なかったが、こうして外まで出てきて睨み合いを続けている。
しかしこのまま永遠に睨み合っていても何の意味もない。だからマゼンタは半ば呆れたように口を開いて、相手に確認するのだった。
「それがおまえの本当の色なんだな」
マロウを演じていたモーヴの髪や瞳の色は、赤みなど一切ない純粋な紫色と化していた。
「やっと本来の色に戻れたよ」
「だったら最初からそうしておけばよかったのに」
「その辺の事情はおまえもよく知っているだろ」
本物のマロウ王子を護るため……そのためにモーヴは自分も王子でありながら、わざわざ色を変える薬とやらを飲んで、この学園で授業を受け続けた。そこまでする意味がいったいどこにあるのか、マゼンタには未だよくわからない。柑子のように、マロウもモーヴも本当の自分の姿で、授業を一から全て受講すればよかったものを……
すると黙りこくった彼女にモーヴが言う。
「おまえ、赤人ではなく紫人だろ?」
マゼンタははたとして彼を見た。
「え……?」
「今までのおまえの言動、全てどう考えても赤人のものとは思えない」
マゼンタはマロウやモーヴと接した時のことを、脳をフル回転させながら振り返る。どこかでミスをしたか……?質問に間違った答えを出してしまっただろうか……⁈
「だいたい紫人は色光に変身なんかしなくても簡単に空中浮遊出来る」
「は?何言って……」
ふと、マゼンタはやけに足元がすうすうする感じを覚えた。いつもなら、色光で飛行していない状態ならば足の下には何らかの感触があって、それは硬かったり柔らかかったりしても絶対になくなることはない。なのに今は……
彼女は嫌な気配を足の下に感じつつ、視線をその方向へと向けてみた。
案の定、足元には何もなく、彼女は自分の生身の体が宙に浮かんでいることを初めて実感したのだった。
「う、浮い……!」
「今気づいたのかよ……」モーヴが若干顔を引きつらせる。
彼女の足の下に地面はある、あるにはあるが、距離が遠い。今いる場所はまるで建物の三階部分に当たるだろうか。とにかく高所だ、これは高所に違いない……!
でも体はなぜか安定し、そのまま地面に落ちることもなく風で吹き飛ばされることもなく、ただ宙に浮かんでいる。
突如、マゼンタの脳裏に赤星武闘大会での一件が思い出された。
赤星武闘大会最終戦で緋色と戦った時、彼女は無意識のうちにそこら中を自由に飛び回っている。その後大会が終わって映像で自分の姿を確認し、何度か挑戦したものの、結局飛ぶことは叶わなかった。けれどこの学園に来て、色光に変身して空を飛ぶことに成功したから、生身で飛ぶ感覚をまた思い出してしまったのだろうか……でも……
マゼンタは意を決したようにモーヴに視線を戻した。
「私は紫人ではなく赤人だ」
「は?それだけ浮いてるのに?」
「浮いていても私は赤人だ」
無表情で言い切る彼女に、モーヴは怪訝な顔をする。
「どこからどう見てもおまえは紫人なのに」
「私は、赤星紅国守人一族、クリムスン家の人間だ」
彼女の答えにモーヴは軽く溜息をついた。
「あっそ。ならさっさと勝負の続きをしよう、自称赤人」
全然納得していないじゃないか……!マゼンタは彼に何か言い返そうとした、その時だ。
彼女の姿は消え、闘技場の近くにあった戦闘部校舎に轟音が響いたかと思うと、校舎の三階と四階の壁に大きな穴が開いていた。
突然、隣の校舎に大穴が空いたのを目撃した闘技場二階のコチニールたちは再び呆然としていた。
長方形の校舎の脇の部分、最上階の四階とその下の三階の部分にどでかい丸い穴が開いて、中の教室が丸見えになっている。教室は人の姿こそ確認出来ないが、黒板も机も椅子も全てが吹っ飛んで奥の壁にも穴が開いていた。穴の切り口はそれこそ闘技場に開いたものと同様でギザギザと角が立ち、瓦礫の残骸が校舎の下へ崩れ落ちていく。
「ど、どういうこと……?」ラセットの声が裏返った。
コチニールははっとして緋色を振り返る。
「緋色、見えた⁈」
その場の全員が驚いて少年に注目すると、
「マロウ王子がマゼンタを蹴り飛ばしたっ!」緋色は明るい笑顔で答えた。
「ええっ⁈」コチニールと葡萄の声が揃う。
「それで、校舎が破壊されるって、あり……⁈」と、マルーン。
「てかおまえ、何笑ってんだよっ⁈」ビスタが緋色に突っ込む。
「だってマロウ王子超速かったんだもん!」
「そんなことを言って、マゼンタがどうなっても構わないんですか⁈」
戦闘部教師のチェスナットが話に割り込んできて、場が急にしんとなった。
「先生……!」コチニールが目を見開く。
やっぱりチェスナット先生はマロウ王子のことだけじゃなく、マゼンタのことも心配して……!
コチニールがそんなことを思っている間、尊敬する教師に問い詰められた緋色は少ししゅんとしていた。が、
「いや、だって、マゼンタはあのぐらいでやられるようなヤツじゃないから……ほら」緋色はそう言って窓の外を指差す。
コチニールたち、チェスナット、煤竹、茶鼠学長も、緋色が指差した方角に視線を向けた。そこには自分たちが今いる闘技場二階より高い所に浮かぶマロウ王子の姿があったが、ほんの一瞬のうちにどこかへと消えてしまったのだ。
「え、マロウ王子……⁈」葡萄が眼鏡の奥で目をしばたたかせる。
次の瞬間、たった今穴の開いた校舎の奥から砂煙が上がった。校舎の奥にはグラウンドが設営されているが、どうやら砂煙はそのグラウンドから立ち上ったらしい。
「いったい、何が……⁈」
茶鼠学長の問いに、緋色がまたも笑顔で答える。
「マゼンタがマロウ王子を思いっきし殴り飛ばしたっ!」




