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イセカイロセカイ  作者: Elisu Arina
橙の章
141/145

第140話 卒業試験


 都立チョウサイ軍事学園に入学して約十一か月。時は年末を迎え、年が明ければ学園は一か月の冬休みに入る。ここカイクウの都に存在する学校のほとんどは夏休みが一週間と短いが、その代わり冬休みが長い。

冬と言っても気温が下がり雪が降って寒さに凍え家の中に閉じ籠る……なんてことは絶対にないので、普段学びを深める学生たちはここぞとばかりに長期休暇を楽しむ。ある者は実家に帰省したり、ある者は橙星(だいだいぼし)の各地へ旅行に行ったり、ある者はもうこれ以上留年しないために机に嚙り付いたり、その様子は人によって様々だ。

 しかし彼女たちにとっては冬休みどうこうの話ではなく、年内卒業を視野に入れて日々を過ごしていた。

チョウサイ軍事学園を卒業するためには、全てのクラスの筆記や実技テストを合格した後、卒業試験を受けて合格すれば晴れて卒業となる。卒業試験は進んだ学科によって内容が変わるが、彼女たちの場合は実技科目と色光(しきこう)科目の二つが設けられていた。

実技科目は生身の状態で、あらかじめ用意されたありとあらゆる武器を使用し、対戦相手と戦って技を披露すれば合格。色光科目も実技科目とやることはほぼ同じだが、色光に変身した状態で武器を具現化し、対戦相手と戦う。

マゼンタはこの二つの科目を合格し、年内卒業を目指す予定でいた。勿論、ライバルのマロウ王子、基、モーヴ王子も。

 卒業試験は通常のクラスのテストと同様、自己申告制だ。自分が受けたいと申し出れば、都合のいい日時を学園側から提示される。

場所は戦闘部と研究開発部、そしてギリギリ衛生部の敷地が被るまさに学園のど真ん中とも言える場所に建つ、闘技場で行われる。

闘技場は灰色の石が積み上げられた円型二階建て。入口は一階正面にぽかりと空いた一か所のみで、二階部分にはガラス窓が手前の半分だけ埋め込まれている。大きさとしてはそこまで大きいわけではなく、収容人数も学園の全生徒の三分の一も入らないくらいだろうか。

 扉のない入口から中に入ると正面は壁で行き止まり。けれど奥に向かって内側にカーブした廊下が左右に伸び、その途中にはそれぞれ二階へ続く階段が設けられている。階段を上れば半円状の二階客席に、階段を上らずそのまま先へ進めば、突き当りの扉から一階の平らな空間に出ることが可能だ。

 一階の平らな空間はその時の催しによって状態が変わるが、卒業試験の場合は壁から独立した横長のステージ上に、鳥籠(とりかご)と呼ばれる檻が設置される。

鳥籠はステージとの接地面から天井すれすれまで伸びた箱型の物質で、橙色の淡い透明な光を放ち、ここに入った者は外で操作する者が鍵を開けない限り、二度と外へは出られない仕様となっている。

また鳥籠は地面よりも少し高いステージ上にあるため、左右には階段が設けられ、入場者が出入りしやすくなっており、鳥籠の手前、つまりステージの前のスペースには衛生部の面々が揃って、受験者に何かあった場合処置が出来るよう備えてもいる。

 こうして年末のとある日の午後、マゼンタとモーヴ王子の卒業試験実技科目が行われることとなったのだ。


 「はい!そんなビビってないで!もう、ちょっとでいいから相手を倒そうとする気概を見せなさいよっ!ねっ⁈」

淡い橙色の光を放つ鳥籠の前で、体術クラス教師の丁子茶(ちょうじちゃ)が叫んでいる。丁子茶は性別は一応男性だが心は女性で、今日もたくさんの小さなお団子を頭に結って厚化粧を施し、ゴージャスな制服を着込んでいる。が、彼は鳥籠の中で短剣を持って向き合ったままプルプルと震えている男子生徒二人を見上げ、内心呆れていた。

 鳥籠内の両端には長机が一つずつ用意されている。その机の上には銃を除くありとあらゆる種類の武器が置かれているのだが、さすがにどれかを選んで生徒同士戦わせるのは平和な星の彼らにとって酷である……とは言うものの、そこは軍事学園。これが卒業試験なんだからしょうがないじゃない!

丁子茶はもう散々見慣れた光景に呆れながらも、試験を受ける生徒たちに叫び続けた。

「おらっ!突っ立ってないでっ!これに合格しなかったら一生卒業出来ないんだからねっ!」

女装教師に檄を飛ばされた鳥籠内の男子生徒たちは、びくっとしながらも彼の言葉が響いたらしく、恐る恐る相手へと向かっていく。そして妙にゆったりとした動きで相手に切りかかると、腰を引きながら短剣を合わせていった。

その様子を丁子茶の隣で見ていた剣術クラス教師の黒茶(くろちゃ)は呆れ果てている。

「なんだこれは」

黒茶はスキンヘッドで、今日も黒い道着を着こなしていた。

すると黒茶のさらに隣に立つ銃術クラス教師の焦茶(こげちゃ)が、苦笑いで黒茶に答える。

「まあ、いつものことですから」

焦茶はチリチリとカールした髪をラフに結び、これまたラフなTシャツとパンツ姿だ。

「見るに堪えん」

黒茶が言い捨てると、焦茶は苦笑いを返すしか術がない。

その間にも丁子茶が鳥籠内の生徒たちを励まし、生徒たちは何とか短剣で相手を切ろうとしている。

そして片方の生徒がもう片方の生徒の腕を微かに切りつけると、そこで試験は終了し、彼らはそれぞれ両端の入口から鳥籠の外へと出てきた。

「はい、合格ね、一応」

丁子茶の呆れた声に、男子生徒たちはぐったりとしながら階段を降りてくる。

 だが怪我を負ったほうの生徒に駆け寄った一人の男性教師がいた。言わずもがな、衛生部の新人教師檜皮(ひわだ)だ。檜皮は髪を低い位置でお団子にし、生徒よりは上質な生地の制服を着こなしている。

彼は怪我を負った生徒に「大丈夫?」と、状態を確認すると「怪我人一人出ました!」背後を振り返って叫んだ。

檜皮の背後には衛生部の生徒たちが十数名揃っている。この卒業試験でさえ衛生部の彼らにとっては大切な実習でもあるのだ。

 そこへ檜皮の元にとある女子生徒がずんずんと近づいてくる。彼女は怪我をした男子生徒の腕を掴むなり「あたしが処置します!」そう言って、彼を衛生部員たちのほうへ連れて行った。

こちらも言わずもがな、マゼンタたちの友人ヘンナだ。彼女は意気揚々と怪我人を床に座らせると、自分も膝をついて彼の制服の袖を思い切りまくり上げる。そして目を引ん剝きながら怪我の具合を凝視した。が、

「前から思ってたんだけどさぁ、あんた変態なの?」

隣でぼんやりと座っていた一応友人のトパーズがヘンナに声を掛けた。

「なんでよ、変態はあんたでしょ?」と、ヘンナがトパーズに返す。

「いや、その処置の仕方、傍から見たら恐怖だよ」

「えっ?」

 ヘンナが驚きのあまり頭を大きく振り上げたちょうどその時、二階の客席になだれ込んだ集団がいた。

二階客席は半円形となった場所に背もたれがついた石造りの椅子が敷き詰められ、勿論前に座る人間と重ならないよう階段状になっている。

その半円の中央、高さとしても真ん中辺りにコチニール、葡萄(えび)緋色(ひいろ)柑子(こうじ)、マルーン、ビスタ、ラセットの七人が急ぎやって来たのだった。彼らは会場全体を見回すと、ほっと息をついて横一列に座り込んだ。

「何とか間に合ったみたいだね……!」

コチニールが一階のステージを見下ろして言った。

「おまえがもたもたしてっから!」ビスタが緋色を睨む。

「オレのせいじゃないっ!テストの画面が全然切り替わらなかったせいっ!」と、緋色。

「おまえいつまで筆記テスト受けてんだよ」

「だってあの画面がずっと合格させてくれないんだもん!」

緋色とビスタが小競り合いをする間、コチニールは周囲を見渡す。二階の客席には他にも何人か卒業試験を観戦しに来ている生徒たちがいたが、熱心に見ているというよりはただ何となく眺めている、そんな雰囲気だった。

一階のステージでは試験を受ける男子生徒たちが向かい合い、各々長机の武器を選んでいる。ステージの手前では丁子茶先生たちが見守り、先生たちの背後では衛生部員が怪我をした生徒に処置を施していたが、その中によく見知った顔触れがあった。

「あれ、ヘンナとトパーズ?」

コチニールが身を乗り出すと、ビスタの隣に掛けたラセットも前のめりになった。

「ああ、衛生部の実習だってさ」

「そうなんだ」

すると緋色の隣りに座った柑子がプルプルと震えて、

「ほ、本物の武器を使用して、戦うなんて、あ、ありえません……」

相手を傷つけてしまったら、どうするんですか……⁈も、もし、それ以上の、ことになってしまったら……‼

「そう、ですよね……」コチニールが王子に相槌を打つ。

体術でさえやっとの柑子王子にとっては恐怖以外の何物でもないだろう。

「でもここ軍事学園だしなっ」

ビスタとの小競り合いを終えた緋色が話に割り込んできた。

「それに怪我をした時のための衛生部員の方々ですし」マルーンも緋色の肩を持つ。

「う、うん、そ、そうだよね……」

それは充分よくわかってはいるのだけど……柑子は恐る恐るステージの鳥籠を見つめた。鳥籠の中ではそれぞれ剣と槍を手にした男子生徒が向かい合って、じりじりと間合いを詰めている。

(ひいいいいっ……!)

柑子のこめかみを冷たい汗が伝った。いつか自分もあの場所に立たなければならないだなんて、想像しただけで気絶してしまう……

「ま、柑子王子はとにかく実技テストを何とかしない限り、あそこに立つことはねえからっ」緋色が明るい笑顔で告げた。

「う、うん」

「あとマルーンも」

「そうだね」マルーンが微笑みを緋色に返す。

実はマルーンが王都の密偵であり、柑子とクラスの足並みを揃えていることを勿論緋色は知らない。

「だったらおまえは筆記テスト何とかしろよっ」

ビスタに指摘され、緋色は思わず吐きそうな顔になった。そこを突っ込まれると何も言い返せない。

その時、それまでずっと黙っていた葡萄がやっと口を開く。

「いえ、柑子殿下もマルーンもご自身のスピードで進めばいいんですよ。百歩譲って緋色の筆記テストも大目に見ましょう」

眼鏡の彼の言葉を聞いて、緋色も柑子もビスタもポカンとなった。柑子やマルーンの進みが遅いことは前々から承知していたが、そこに緋色も加えるだなんて、何かあったのだろうか。

緋色たちが呆然としながら葡萄を凝視していると、

「そんなことより……マゼンタあっ‼あなたいったいどういうつもりなんですかっ⁈三年で卒業する予定が一年足らずで卒業試験を受けるって、冗談にも程があるでしょうがあっ‼」眼鏡の彼が椅子に座ったまま宙へ向けて叫んだ。

彼の様子に緋色たちは呆然としたまま固まっている。

 葡萄の怒りは未だ収まっていなかった。マゼンタから色光実技クラス実技テストに合格したと報告を受けて一週間、その間もずっ……と怒り続けていたのだ。

コチニールと足並みを揃えてもらうのはもう無理だとわかっていた。それでも、たとえそうだとしても、卒業だなんていくらなんでも早すぎる‼

葡萄が怒りの鼻息を最大限に吹き出すと、緋色も彼に珍しく同意した。

「わかるっ!マゼンタ早すぎんだよっ!卒業ってなんだよっ⁈もっと一緒に学園生活楽しみたかったのにっ!」

「そこですかっ⁈」葡萄が緋色を勢いよく覗き込んだ。

「そうだよっ!他に何があんだよっ!」

「勉学というものがあるでしょうがっ!」

「……そうだった‼」

葡萄と緋色がぎゃあぎゃあと騒ぎ、そこにビスタや落ち込む柑子も加わって、二階の客席はかなり賑やかになった。

コチニールは彼らの会話を耳にしながら、小さな溜息をつく。

卒業試験……これに合格したら、マゼンタは僕たちを置いてこの学園を去ってしまうのか……



 時は前日に遡る。

戦闘部の敷地内に建つとある校舎の廊下を、マゼンタが一人歩いていた。

つやつやと煌めく廊下は真っ直ぐ前へと敷かれ、塵や埃一つない。清掃員がよほど丁寧に磨いているのだろうか。

右側に連なるガラス窓からは、夕日の残り火が差し込んでいる。左側には座学で使用する教室の扉がぽつぽつと並んでいるが、室内はどれも空っぽで、廊下にも人の姿はない。

 明日は卒業試験実技科目が行われる。恐らく明日の今頃にはもう結果が出ているだろう。

そしてそれが終われば次は色光科目だ。色光科目は色光実技クラスの実地訓練先である砂漠に赴いて行われる。内容はいつもの授業の延長とでも言うべきか、マゼンタにとっては決して難しいものではない。だから実技科目と色光科目、この二つを無事クリアすれば年内卒業は間違いなしだ。

 葡萄はきっとまだ怒っているだろう。コチニールもさすがに残念がっていた。

確かに葡萄の言いたいことはわかる、コチニールの思いも……でも入学当初、自分のことは自分でやるとコチニールは決めている。そして私には私の学ぶべきものがあるとも言っていた。それに、私は……

 マゼンタが前へ進みながら自分の思いを再確認していた、その時だ。誰もいないはずの廊下を、真正面からこちらに向かって歩いてくる人影が見えた。

その人物はマゼンタより少しだけ背が高く、至って平均的な体格をし、肌は透けるように白く均整の取れた顔立ち、背中までの真っ直ぐな髪と眉辺りで切り揃えられた前髪で、髪と瞳の色は青みを帯びた赤紫色をしている。彼はいつもの微笑みを浮かべることも、呆れたり威嚇したりすることもなく、こちらへと一直線に向かってきた。

だが彼は何も言わず彼女の横を通り過ぎた。彼女もまた何も言わずそのまま歩き続ける。なぜなら特に言いたいことなどなかったからだ。しかし、

「明日の卒業試験」

背中から彼の言葉が降ってきて、マゼンタは立ち止まった。

「本気で行くから」

マロウ王子を演じるモーヴ王子が立ち止まって告げた。勿論、彼女を振り向かずに。

それに対しマゼンタは何も答えなかった。

背後でモーヴが立ち去る気配がして、彼女もまた前へと歩き始めた。



 時が現在へと戻った闘技場の二階客席では、相変わらず葡萄と緋色、ビスタと柑子がマゼンタの卒業に関してわあわあと騒いでいる。ビスタの隣に座ったラセットも相槌を打ち、柑子の隣に掛けたマルーンは口角を引きつらせて何とか笑顔を作っていた。

けれども彼らの真ん中に座ったコチニールだけは、内心しょんぼりとした思いを抱え、会場全体を見渡している。

妹のことだ。きっと実技科目だろうと色光科目だろうと、あっけなく合格して卒業してしまうだろう……そんな風にコチニールが思っていると、視界の左側に最近よく見かける人物が姿を現した。

彼は緩くカールした顎までの髪に、今日もTシャツとジレ、パンツ姿で客席のさらに左のほうへ進んでいく。そして既に腰掛けていた二人の人物に近づいて何やら挨拶をし、自らも彼らの隣に腰を下ろした。

(チェスナット先生……)

 コチニールが心の中で彼の名をぽつり呟いた時、当のチェスナットもコチニールたちが二階客席にいることを目の端で確認していた。

しかし直接彼らを見ることはせず、自分の隣に座る研究開発部武器開発学科教師の煤竹(すすたけ)と、煤竹の隣に座る茶鼠(ちゃねず)学長に笑顔を向ける。

茶鼠学長も煤竹先生も髪型や髪質こそチリチリカールの短髪でほぼ同じだが、茶鼠は小柄でショールを体に巻きつけたような服装をし、煤竹は大柄筋肉質で溶接作業服だ。

「どうですか、生徒たちの奮闘ぶりは」

「まあ、そこそこと言ったところかねぇ」

チェスナットの問いかけに茶鼠学長が微笑んで答える。

「でも鳥籠の調子はかなり良いですぞ。この前修理して絶対に中の生徒が外に出られないよう改良しましたからな」と、にやつく煤竹。

「それは何よりですなぁ」

茶鼠学長が煤竹に微笑み返すも、チェスナットは内心苦笑いだ。

絶対外に出られないって、そもそも無理矢理出ようとする生徒が今までいただろうか……?

「なんせ今回の大取は学園始まって以来の強者とも聞いておりますからな、頑丈に補強しておかんと」

「ああ、彼らのことですな」

煤竹と茶鼠学長が話すのを耳にしながら、チェスナットは大きくうなずいていた。

そう、彼らがこの檻の中に入るなら、あらかじめ徹底的に準備を整えておくに越したことはない。

チェスナットは一階のステージ上に設けられた鳥籠の中で戦う男子生徒たちを見下ろす。

男子生徒たちはそれぞれ剣と槍を手に恐る恐る相手と戦っているが、それはどこからどう見ても戦いと呼べるものではない。

けれどもその手前に立つ丁子茶先生は一生懸命生徒たちを応援しているし、鳥籠のすぐ側、自分たちが見下ろす手前側には鳥籠を調整する煙草(たばこ)先生と、助手の女子生徒が立って試合の様子を見守っている。

(煙草先生、どこにでも絡んできますね……)

チェスナットが研究開発部武器開発学科所属でありながら、ブラウン系で色光に変身可能で色光実技クラスの助っ人にもなってもらい、何ならコントロールセンターのオペレーターをも助けてくれる煙草を見下ろして頬を緩めた。

煙草は緩くカールした短髪に無精ひげを生やし、煤竹と同じ溶接作業服を着用して、手には四角いタブレット端末を持っている。

彼はその端末に指で触れながら、実際の鳥籠を見上げた。

(状態は極めて良好、全くもって異常なしだ)

 すると、隣に立つ本日助手として買って出た(すずめ)という女子生徒が、自分を穴の開くほど見つめている。

「なんだ?」

「いえ、あの、ただ、この鳥籠って、煙草先生が作ったんです、よね?」

たどたどしい喋り方、これが彼女の癖らしい。

「いや、正確には俺は手伝っただけ。考案したのも設計したのも実際作ったのも全部煤竹さんだよ」

「煤竹さん……?煤竹先生?」

「そ」

「はあ、そうなんですか……」

「なんで?」

「いえ、だって、武器開発学科なのに、鳥籠は武器っていうより、檻だから……」

雀に言われて煙草は思わずふっと笑った。

「あの人は自分が作りたいと思った物は武器じゃなくても作っちまうし、こんな物が欲しいって頼まれればそれが武器じゃなくてもやっぱ作っちまうんだよ」

「へえ……」

「そっちこそ、得意とするのは刃物関連じゃなかったのか?」

「え?あ、そう、ですけど」

「なのになんで今回助手に手を挙げたんだ?」

煙草の質問に雀は突然うつむくと、信じられないくらいに縮こまった。どうやら何かしら事情があるらしい。

「ま、別にいいけどさ」

彼はそれだけ彼女に言うと、再度鳥籠を見上げる。鳥籠の中では試合を終えた生徒がぐったりとしながら、ちょうど武器を長机に戻すところだった。

おっと、扉を開けなくては……煙草が手にしていたタブレット端末に触れる。鳥籠の両端の光の壁が音もなく消え去り、中から生徒たちがよたよたと顔を覗かせた。

「はい、一応、合格ね」

出て来た男子生徒二人に、丁子茶が呆れたように結果を告げる。

丁子茶の隣に立つ黒茶は腕組をしたまま溜息をつき、さらに隣に立つ焦茶は思い切り苦笑いを浮かべた。

 試験を終えた男子生徒たちが階段を下りて会場から退出すると、その場の教師たちが思わず本音を述べ始める。

「この卒業試験意味あるか?」と、黒茶が言えば、

「ハッキリ言ってないわね」丁子茶が黒茶に同意し、

「でもこれ決まりじゃない?武器を使って技を披露すれば合格っていう」焦茶だ。

「そりゃそうだけどあまりに低姿勢過ぎでしょっ」当然丁子茶が反論する。

「僕としては、怪我人が出ないほうがありがたいんですけど……」衛生部の檜皮が呟いた。

「それだって生徒たちのためにならないわよっ」丁子茶が檜皮の背後に控える衛生部員たちに目をやる。

「た、確かに……」女装教師に言われて檜皮が視線を落とした。

「まあでも次で最後ですから、さっさと終わらせましょ」

煙草が彼らの会話に終止符を打ったその時、会場一階の両端にある開け放たれた扉から、各々生徒が姿を見せた。

 瞬間、場の空気が一気に変わった。

正面向かって右側の扉からは紫星(むらさきぼし)の王子が、向かって左側の扉からは赤紫色の少女が入場して来たのだが、二人の雰囲気が明らかにいつもとは違う。

その空気を感じ取った鳥籠前の教師陣は、思わず息を吞み込んだ。




















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