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イセカイロセカイ  作者: Elisu Arina
橙の章
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第134話 実地訓練


 朝の食堂は人の姿もまばらだ。決して早い時間帯ではないが、生徒も教職員もちらほらとしか見当たらない。

朝に何かしら胃に収めねば頭が回らぬ者は、授業が始まる前に必ずこの場所を訪れる。が、そうでない者は当然寮から直接校舎に向かい授業を受けていた。或いは腹を空かせているにも関わらず、何らかの事情でどうしても授業に遅れそうな場合は、泣く泣く校舎へ向かう者たちもいた。

けれど基本的にコチニールと葡萄(えび)は、赤星(あかほし)紅国(くれないこく)にいた頃からの習慣で、毎朝食堂を訪れるのが日課となっている。ちなみに緋色(ひいろ)は今朝は食べるより寝ることを優先したらしく、まだ姿を見せていない。

だからコチニールと葡萄の二人は厨房の前に並べられた野菜や芋や豆をプレートに載せると、いつものようにテーブルに並んで座り、先に食事を取り始めた。

 橙星(だいだいぼし)の味付けにもだいぶ慣れた。当初は紅国の食事より味が濃く感じられたが、汗をたくさんかくこの星では、塩分や糖分をある程度摂取しないと途端に体がバテてしまう。そのことに気づいてからは、舌がどんどんこの星の味付けを欲するようになっていった。

 コチニールと葡萄が並んで食事を取っていると、共に大きなあくびをしたビスタとラセットがのっそりとやって来た。二人の白目は血走っていて、何なら瞼がほとんど閉じかかっている。

「おはよう」

コチニールが彼らに挨拶をした。

ビスタとラセットはごにょごにょと挨拶らしきものを返すと、厨房のほうへ向かっていく。

「徹夜ですか?」葡萄が二人の背中に尋ねた。

「そ。さっき試合終わって」ラセットが答えると、彼らはそのまま去っていった。

蹴鞠(けまり)中継のどこがそんなに面白いんだか」

言いつつ葡萄が潰された芋をスプーンですくう。

「まあ、この星では有名みたいだからね」

コチニールが答えた時、自分たちの近くのテーブルに二人の女子生徒がやって来て腰を下ろした。彼女たちは向かい合って早速朝食を取り始めたが、そのうちの一人を葡萄が何やらじっと見つめている。

そのことに気づいたコチニールは、

「あのさ、トパーズと何かあった?」

彼の質問に葡萄はむせ返った。芋で気道が塞がるではないか……!

コチニールたちの近くのテーブルに座っていたのは、ヘンナとトパーズだったのだ。

彼女たちはしばし食事を楽しんでいたが、葡萄があまりにもむせ返るので、さすがにトパーズがこちらを見やる。しかしその視線はすぐさま目の前のヘンナへと戻った。

葡萄はというと何とか落ち着いて、

「何も、ありませんよ」眼鏡の奥で漏れ出た涙を拭った。

「でも、舞踏会の後からなんか様子がおかしいんだよね」

「べ、別に、そんなことは……」

「そう?」

「そう、です」

 実際仮面舞踏会の夜、中央棟のベンチで彼女が自分に言ったことは、葡萄に大きく突き刺さっていた。

〝不自由そう〟

生まれてこの方、そんな風に言われたことなど一度もない。勿論自身が思ったことも一度たりともない。

クリムスン家の一員として生まれ、頭首クリムスンに言われるがままに育ち、進学して留学して、家のため頭首のため頭首の息子たちのために自分の全てを費やしてきた。

それは確かに全部他人のためだろう。自分の意思などほとんど反映されてはいない。

けれどもそれを今さら自分のために生きろ、星も国も家も関係なく自分の好きを貫き通せと言われても、はいそうですかと素直に受け入れられるわけがないのだ。

 でも……

葡萄は再度トパーズを盗み見た。彼女はヘンナと食事をしながら、クスクスと笑っている。

あんな自分より年下の子に〝不自由そう〟と言われたのが、葡萄には気になって仕方ないのだった。

 葡萄の隣で野菜を口に運ぶコチニールは、彼とトパーズを交互に見ながら確信している。

(絶対何かあった)と。

 その時、食堂の入口から威勢のいい少年が飛び込んできた。

「間に合った!」

彼は早速コチニールたちの姿を見つけると、朝の挨拶をしながら二人に近づく。

「もう食い終わる⁈」

「あと少しで」コチニールが緋色に答えた。

緋色の寝癖は凄まじく、今朝も毛先があちこちに飛び跳ねている。

「ヤベっ、ちょっと待って!オレもすぐ食べるから!」

緋色はそう言いつつ厨房のほうへ向かおうとするが、突然ピタリと立ち止まった。

「あれ、マゼンタは?」

朝食はいつもコチニール、葡萄、それにマゼンタも一緒だった。だが彼女の姿が見当たらない。

「ああ、マゼンタなら色光(しきこう)の実地訓練で朝早くに出掛けたよ」

「実地訓練っ⁈」

「学園の中では出来ないから、誰もいない場所で訓練するんだって」

コチニールの説明に、緋色は思い切り息を飲み込んだ。



 橙星にもこんな場所があるのか。

今自分たちの足元には淡い茶色で埋め尽くされた広大な砂漠が広がっている。この砂漠には、カイクウの都にあるような学園やビル群や鬱蒼とした森は一切ない。ただどこまでも大地にさらさらとした砂粒が敷かれ、果ては淡い橙色の空だけだ。

今は色光に変身しているから、その空気を肌で直に感じることは出来ないが、恐らく空気はかなり乾燥しているだろう。ここは一年中湿度に覆われた橙星の中では、きっと相当珍しい場所に違いない。

「はい、それじゃあ二人ペアになってくださいね」

少し離れた所で、宙に浮かぶ色光が言った。

顔は人のようだが頭に長い角が二本生え、全身は重々しい鎧で覆われ、背中には翼、鎧の先の手足には鋭い爪が伸び、全身から橙色の光を発している。

しかしよく目を凝らせば、表面の色からそれが誰なのかはすぐに察しが付いた。

ほんのり深みのある穏やかな茶色……これと同じ髪と瞳の色をした男を知っている。言わずもがな色光クラス担当、チェスナットだ。奴が色光に変身するとこうなるのか。

自身も色光となったマゼンタが、宙に浮かびながら彼をよくよく観察した。

 現在、チェスナット以外には八人の生徒がこの場にいる。自分、マロウ王子を演じるモーヴ、それ以外は全員初めて見る上級生ばかりだ。

 今朝、学園の色光フィールドに集められたマゼンタたちは、その場で色光になると学園を出て、しばらく飛行した後この砂漠へやって来た。

理由は、学園内では危険すぎるため、地上に誰もいないこの場所で授業を行うらしい。

(まあ言われてみれば確かに……)

彼女はそう思いつつ、自分たちから離れた所に浮かぶ黒い物体に目をやる。

今この場にいるのは、生徒たちとチェスナットだけではなかった。もう一人、ガンメタルという色光クラス担当の教師が初めて顔を見せたのだ。

 変身前の姿は年齢が三十代半ば、大柄なビスタよりさらに背が高くがっしりとした体格で、日に焼けた肌に険しい目元、顎までの髪をオールバックにし、髪と瞳の色は茶色というより黒寄りの灰色だ。格好は上半身裸でその上にショールのようなものを巻き、下はごつごつとしたパンツ姿だった。

 そして色光に変身した今はというと、形こそチェスナットと似ているがやはり全身の色は髪と瞳と同じ黒寄りの灰色で、そこから橙色の光を微かに発光させている。

 変身前は色光に特化した一族、即ちブラウン系ではなさそうに見えたが、あっさり変身したところからすると、つまりは〝例外〟なのだろう。

ブラウン系全員が色光になるわけではない、色光になれても別の道に進む者もいる、そしてガンメタルの場合は色光になれるブラウン系ではない人物、ということになるのか。

 マゼンタがそんなことを思案していると、自分と向かい合うように色光のモーヴが宙に浮かんだ。

辺りを見回すと、他の上級生たちもそれぞれ二人組になっている。どうやら皆チェスナットの指示を忠実に守ったらしい。

「そうしましたら、まずは剣を具現化させてみましょうか」

自分たちから離れた所に浮かぶチェスナットが、にこやかに次の指示を出した。

色光に変身しているから、にこやかかどうかは定かではないが、声音から察するにきっと笑顔に違いない。

(剣の具現化……)

簡単に言う……マゼンタは心の中でチェスナットに悪態をついた。

 そう、この武器の具現化が今日の授業テーマだから、自分たちは学園を飛び出したのだった。

もし万が一武器を具現化出来たとして、もし万が一その武器が手から離れてしまったら、落下した武器は学園に多大なる被害を与えかねない。

だからこんな何もない砂漠のど真ん中にやって来て、今日の授業を受けることになったのだ。

(剣……剣……)

 初めて父クリムスンの色光を目にした時、クリムスンは何もない所から突然銃のようなものを出現させていた。

そしてマゼンタ自身は赤星紅国の武闘大会に出場した際、生身の状態で弓や槍、剣を出現させている。勿論記憶にはない、後から映像で確認して知ったのだ。

その後、何度か自分の手の中に何かしらの武器を出現させてみようとはしたけれど、宙に浮かぶのと同様、全く出来なかった。

でも……色光に変身した今なら、出来るのか……?

マゼンタは巨大化した自らの右手を持ち上げ、その手の平をしばし見つめた。

 彼女の様子を正面に浮かぶモーヴはただ静かに見守り、離れた所に浮かぶチェスナットは生徒全員を視野に入れつつその時を待った。


 周囲の上級生は苦戦している。当然だ、何もない所に自分のイメージだけで物を創りあげるのだから。しかも小さな物体ではない。今の自分に見合った大きさの剣を出現させなければならないのだ。そこには当然膨大なエネルギーが必要となる。

 だからこそチェスナットは根気よくその瞬間を待つつもりだった。ガンメタルも一切関心がないように振る舞ってはいるが、その場から退散する気配はない。

 ところが、だ。

その瞬間は意外と早くやって来た。

彼女の手の平に小さな赤紫色の光が集まり始めたと思ったら、光はどんどん大きく、そして長くなり、ついには剣を形作ってしまった。

銀色に輝く刃に赤紫色の握り、これはまさしく色光に相応しい剣と言えるだろう。

「またか……」

チェスナットは半ば期待していたものの、それがあっさり叶えられて呆然とした。彼女が何かやってのける際は、もうこの感情が常だ。

ガンメタルに関してはどんな思いなのか、何も言わずただ宙に浮かんでいる。

 対して驚いているのは、本人と周りの上級生たちだった。

(で、出た……)

マゼンタは自分の髪や瞳と同じ色の柄を握りながら目の前の剣にポカンとしていたし、上級生たちも言葉を失ってただその剣を見つめている。

(生身の状態でも出せたから、色光でも出せた、ということか……?)

彼女が依然口を呆けていると、自分と向かい合う色光が何やら光り始めた。

マゼンタもチェスナットも周りの上級生たちもその光に気づいて目を向けると、モーヴの右手の中にもいつの間にか剣が出現している。彼の剣もまた彼女と同じ形で同じような色をしていた。

(こい、つ……!)

私が剣を出現させるのを待っていたのか……⁈

マゼンタが啞然とすると、マロウ王子を演じるモーヴは離れた所に浮かぶチェスナットに顔を向けた。次の指示は?とでも言わんばかりに。

「で、では、剣の具現化が出来た生徒は、ペアになった相手と剣術稽古を始めてください」

担当教師の言葉に、モーヴがマゼンタに向き直る。

「じゃあ、やろうか」

モーヴはそう言って巨大な剣を構えた。

一歩遅れを取ったマゼンタも、今具現化したばかりの剣を構える。

剣はこんなに太くて長いにも関わらず、決して重さを感じさせない。まるで等身大サイズで普段練習に使用する木刀と同じくらいの軽さだ。

 最初に動いたのはモーヴのほうだった。

彼が剣を振り上げた時には既に目の前で手の中のそれをマゼンタに振り下ろそうとしていた。

「っ……!」しかし彼女はすぐさま自らの剣で彼の剣を受け止める。

大剣と大剣がぶつかる音が砂漠に響いた。

剣の扱いは等身大で戦う時と何ら変わらない。持ち手の感触も動かし方も、色光だからといって特に変化はない。

マゼンタはたった今剣を具現化したばかりとはいえ、上下左右から次々と振り下ろされる相手の剣に、しっかりと自分の剣を合わせていくのだった。


 その後、剣の具現化に成功した他の生徒は今の所いない。上級生たちは皆必死に自らの手に集中しているが、それでも望む物は形作られない。

だからチェスナットもガンメタルも、あっさり剣を具現化させて剣術稽古に励む二人の新入生に注目するしかなかった。

彼らが重ね合わせる図太い剣の音は砂漠中に響き渡り、その俊敏な動きは本当に色光なのかと疑いたくなるほどあっぱれだった。体躯だけでなく翼を自由にはためかせ、相手に向かって行っては攻撃を仕掛け、また上手に防いでいる。

しかも最初はどことなく互いを気遣う様子を見せていたが、今は生身で戦う状態と変わらない。こんな稽古を見せつけられては、注目しないほうが無理である。

「やれやれ……」

これでは剣どころかその他の武器、刀だろうが弓だろうが槍だろうが銃だろうが、簡単に具現化させてしまうのではなかろうか……チェスナットが無意識に溜息をつきながらそう思っていると、自分の背後から低い声が降ってきた。

「もういいんじゃねえか」

気づけばすぐ後ろにガンメタルが浮かんでいる。確かに彼の言う通り、そろそろ学園に戻る時間だ。

「はい、それでは今日の授業はここまで。皆さんお疲れ様でした、学園に帰還しましょう」

チェスナットが生徒たちに言ったすぐ後だった。

「こっちの四人は俺に、そっちの四人はチェスナットについて行け。ルートは端末に送ってある。じゃあな」

ガンメタルが言うや否や、自らの翼を大きく羽ばたかせ飛び始めた。

「え……」ポカンとするチェスナットだったが、指示された生徒たちは担当教師に従っていく。無論、マゼンタとモーヴは二人の上級生と共にガンメタルの後を追った。

「別々に帰還するんですか?」

呆然とするチェスナットと他の生徒たちを残して、ガンメタルに付いたマゼンタたちは淡い橙色の空に消えていった。


 学園の中央棟の奥には戦闘部と衛生部の敷地が隣接するように広がっているが、衛生部のさらに奥にあるのは研究開発部の敷地だった。

衛生部の敷地面積は戦闘部に比べれば小さなものだ。しかし研究開発部は研究の内容によってはかなり大きな場所を必要とする場合もあるため、戦闘部に劣らない程の広さを有している。

戦闘部の授業で一番面積を必要とする場所は言わずもがな色光フィールドだが、その色光フィールドの一端と研究開発部の一部を重ねるように建てられたのが、コントロールセンターだ。

地上二階建て、白い箱型をしたコントロールセンターは、小さな四角い曇りガラスの窓がちょこちょこと配置されるだけで、外からは屋内がいったいどんな風になっているのか全く見当もつかない。

けれど建物正面の端にある透明な自動扉を抜けると、外観と同じ真っ白で無機質な廊下が続き、それが急に右に折れ曲がったと思ったら、そこにあるのがまさしくコントロールセンターの中枢だった。

建物の入口と同じ透明な自動扉の奥には、前方の壁に大きなモニター画面が埋め込まれ、一つの映像を大きく映したり、はたまた分割して橙星内の様々な映像を映し出すことも可能だ。

モニター画面の手前には白く長いテーブルが前後二列に配置され、中央部分と両端は人が行き来出来るように隙間が空いている。

テーブル上には透けて光る画面が等間隔に浮かび、それに合わせて長時間座っても疲労を感じさせない白い椅子が画面の数だけ置かれている。

ただし全ての椅子に今現在誰かが座っているかというとそういうわけでもなく、所々に職員が赴いては、その時々の業務をこなしているのだった。

 ココナッツもコントロールセンター勤務の一人だ。

ココナッツ、二十五歳。高くも低くもない背丈に軽くも重くもない体重と、いたって平均的な体格。しかも童顔でいつも生徒に間違われる。肌は橙人(だいだいびと)らしくよく日に焼け、肩下まで伸びた髪はふんわりとカールし、髪と瞳の色は茶色としか言いようのない茶色。服装は蒸し暑い橙星にも関わらず常に上半身を覆うポンチョに、細身のパンツを愛用している。

 そんな彼だが、生まれは一応ブラウン系で、学園での所属は戦闘部色光学科だった。

が、彼も例に漏れず色光化が得意ではなく、このコントロールセンターのオペレーターとして働いている。

彼の仕事は主に学園の内や外を行き来する色光を確認すること。つまり学園の中から外に出た色光が、ちゃんと所定のルートを通って帰還するのを見守るのが役目だった。

現在学園からは十体の色光が実地訓練として砂漠に出向いている。うち二体は戦闘部の教師だ。たとえよちよち歩きの生徒たちが一緒だとしても、きっといつものように何の問題もなく帰って来るだろう。

 ココナッツは前列の端っこの席に座りながら、目の前で光る画面をぼんやりと眺めた。画面には橙星の地図が描かれ、ちょうど砂漠から移動する色光の位置が点として表示されている。その点は二手に分かれて既に移動を開始していた。

 その時、自分の座る席とは対極に当たる後列の端から喚声が上がった。

ココナッツが振り返ると、何やら数人の男子生徒が机上に浮かぶ画面を指差して盛り上がっている。さらにその隣の席でも二人の生徒が光る画面に向かいながら笑顔を浮かべていた。

「まったくもぉ……」

ココナッツはポツリ呟いた。

 生徒たちの中には色光学科に進んだはいいものの、なかなかそれが叶わず別の道を進まざるを得ない者たちがいる。

勿論すっぱり諦めて違う分野を学び直す者もいるが、人によっては何らかの形で色光に関わるクラスを受講する生徒もいるのだ。

その一つがオペレータークラスだ。色光にルートを示して移動の指示を与えたり、色光からの要望に応えて安全なルートを検索したり……とにかくこのクラスを受講する生徒はコントロールセンターで実際に画面を操作して経験を積む。

 だけど彼らはだいたいいつもはしゃいでいる。橙人の気質のせいもあるが、何かと面白がって適当に操作してはゲラゲラ笑っているのだ。

クラスの担当教師の姿は見えない。きっと生徒たちだけに任せてどこかへ行ってしまったのだろう。これも橙星あるあるだ。ま、自分も人のことはとやかく言えないけど、彼らに比べたらかなりまともに仕事をしているほうだ。

 そうして後列の端で笑っていた彼らは一通り画面を操作し終えると、コントロールセンターから出て行ってしまった。

前々から思っていたことではあるけど、学園の、いやカイクウの都の、いやさ橙星の管理はかなり緩い。

平和な星だからというのもあるが、基本皆扉に鍵はかけないし、このコントロールセンターだって職員から教師から生徒から出入り自由だ。

 でもココナッツはそういう星の生まれで、そういう場所で生きてきた。

だからこそついさっきまで騒いでいた男子生徒たちに呆れはしたものの、それ以上の追及は当然ながらするはずもなかったのだ。


 色光の飛行速度は生身で走るよりもかなり速い。この巨体でどうしてそんなスピードが出せるのかマゼンタには今一ピンとこなかったが、大きな翼の威力が相当なものだからだろう。等身大では存在しない背中から生えた翼は、絶えず空気をはらませながら一生懸命に巨体を運んでくれる。しかも他の者はどうか知らないが、全く疲れを感じさせない。なんてありがたい体なのだろうか。これならばそれ程時間がかからずに学園に帰れそう……と、マゼンタは思っていたが、生憎期待通りにはならなかった。

 自分たちが飛行している砂漠がやけに広すぎた、それもある。

先程から進んでも進んでも淡い茶色の砂粒と淡い橙色の空が続き、学園を囲む密林の草一本もお目にかかれない。

 しかし一番の理由は砂漠の広さ云々ではなかった。

当初は共に並んで担当教師ガンメタルと上級生二人の後を付いて行ったマゼンタだったが、隣を飛行している奴の様子がどうにもおかしいのだ。

飛行速度は最初から全く変わらないはずなのに、奴だけはどんどん後れを取っていく。しかも呼吸が荒く、翼の動きがかなり鈍くなっていた。

「大丈夫か?」

マゼンタは一応彼のスピードに合わせて速度を緩めると、声を掛けた。

「なんでもない……」

モーヴからつっけんどんな答えが返ってくる。その間にも教師ガンメタルと上級生たちはどんどん先へと進んでいく。

「具合が悪いのか?」彼女は続けて尋ねた。

「だから、なんでもないって言ってるだろ……」

モーヴは答えるが、とてもそんな風には見えない。現に彼はすっかり翼の動きを停止させ、その場に留まってしまったのだった。

仕方なくマゼンタも彼の隣に留まった。どうやらこいつは前に進めないほど体に異変をきたしているらしい。

「おまえは先に行け……私は後から行く……」

荒い呼吸をしながらモーヴが言った。

彼女は先を進むガンメタルたちの方角に顔を向ける。彼らの姿は既に豆粒くらいとなってしまっていた。

「いや、私も残る。おまえは地上に降りて一旦休んだほうがいいと思うぞ。ルートなら端末に送ってあるから、それを辿ればいいし」

マゼンタの言葉を聞いたモーヴは大きな息を吐くと、やけに素直に砂漠の大地へと舞い降りたのだった。


 その頃、砂漠の上空を飛行するガンメタルは、ふと自分の背後に目をやった。

自らの両翼を大きく羽ばたかせたその後ろに、二人の上級生が並んで付いてきている。しかし、そのさらに後ろを飛行していたはずの紫色と赤紫色の生徒の姿がない。

「あの二人か」

ガンメタルはぼそり呟くと、そのまま目的地へ飛行を続けるのだった。





















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