最終回 また逢う日まで
「あー、ではこの度の騒ぎの顛末をまとめる」
伝説の英雄は、ガン首を揃えて神妙にかしこまる長老たちと殿様を前に言った。
「長老衆の最高齢、通称『おババ』は、いつからか不正に蓄財し秘匿していたが、辺境候並びに他の長老衆に追求された事を逆恨みして、己の悪事を知る者全員をいっそ亡き者にしようとしたものである。だが通称『おババ』は辺境候以下土地の者たちの奮闘により見事成敗された」
「これが証拠のおババのクビでごぜぇますだ」
伝説の英雄は差し出された箱の中身をチラ見して、心底嫌そうな顔をした。
「通称『おババ』が不正に貯め込んだ財産は小さな蔵ひとつ分で中身は食糧であった。これは辺境候が今後適正に処理するものとする」
「かしこまりました」
「取り敢えずそういう事で後は任せます。私はあくまで息子を迎えに来て、偶然この騒ぎに遭遇しましたが、これも役目と仕事をしたまでの事。ありがちな事件ですが、土地の領主が迅速に鎮めた見事な手際、確かに見届けましたぞ」
伝説の英雄はジュニア(実は皇帝)をおんぶし、ご丁寧に紐まで使ってくくり付けている。皇帝は真っ赤になって怒っていた。
「途中で落っことすといけませんから」
「おんぶを怒ってるんじゃないの。ボクはタロサの成長が見たいの。ボクの人生のどんな事より優先するの。どんな犠牲でも払ってもタロサを見守る価値がボクにはあるの」
「すぐまた会えます。今度こそ帝都に出頭します」
「帝都に遊びに来るくらいは好きにすればいいの。皇帝陛下は貴方に召喚状だけは出さないと決めているの。でもタロサはここで生まれたから、ここで育つべきなの。問題は、今度ここに来る役を、本物の『あの子』に取られそうだって事なの」
タロサは皇帝に触りたいらしく、伝説の英雄の足元でしきりに跳びはねていた。
「もっとも、あの子がここに来たら、おババさまそっくりの妹のコババさまだのいう人が出て来て、あのイモリジュースを飲ませてくれるのは分かってるの」
伝説の英雄は唐突に、子供にするように殿様の頭を撫でて、貴方に会って私がどれほど救われたか分かるだろうか、と言った。
「耳の事は済まなかった。出来れば傷つけたくなかった。だが、ああしなければこっちも危なかったのだ」
そう言った途端、例のつむじ風が吹いて、そこにはもう伝説の英雄も皇帝の姿もなかった。
「今のでホントに帰ったんだべか」と、誰かが言った。
「念のため、おババにはもう2、3日は墓に隠れてもらうだ」
「なんならずっと隠れてもらってもええだ」
◇◇◇
辺境候が久方ぶりに帝都に上り、幼いタロサともども皇帝に拝謁したのは、その年の秋だった。
辺境の異才『おババ』の薬草その他の知識については、消失させないよう記録を残す事が、おババの息子夫婦及びおババの妹『コババ』に要請され、伝説の英雄の息子がその監修のために辺境に派遣される事が正式に決まった。
謁見の際、皇帝が玉座を下り辺境侯親子に自ら近寄って親しく言葉を交わしたとも、タロサが皇帝の神々しい姿に感極まり周囲の静止を振り切っておそば近くに駆け寄ったとも伝えられるが、詳細が記録される事はなかった。
ムキュッ




