第21話 生きることは冒険だ
土地の猟師でも滅多に入らない山の奥の湖のほとりで、殿様と皇帝は大の字に伸びていた。
グロッキーな2人をよそに、タロサは月明かりの下でちょうちょを追いかけ、尻餅をつき、しかしご機嫌な笑い声を立てている。
「これからどんどん喋りだすだろうな」
殿様はそんなタロサを見ながら言った。
「おババの予見はやっぱり正しい。やはり近い内に何か起きる」
「お母さんがあんなに愛しがっていたこの子が凶兆な筈がないの」
皇帝はまたしても抱きついてくるタロサに、ムキュはダメなの、貴方は力の加減を学ばないといけないの、と、正座して言い聞かせる。
「すぐにでも賢者や予言者を集めて調べさせるの。それに各大臣も動かさない訳にはいかないの」
「帝都に連れて行くのか?」
皇帝は立ち上がり右手を殿様に伸ばし左手で天を指して宣言した。
「皇帝の名において、ドラゴンの化身として生まれたタロサの保護を辺境候『闇夜の爪の息子』に命じます。タロサの安全を守り、生まれた土地においての健全な育成に持てる力を余すところなく注ぐように」
殿様も起き上がりひざまずいて胸に手を当てて言った。
「御意」
「に、してもここから帰るのは大変なの」
「道に迷った訳では、ない」
見れば雲のじゅうたんが足元に広がっていた。
案に相違してやはり冒険の扉は開いてしまったような気がする。
皇帝はいたいけな幼児の肩を両手で掴み哀願した。
「タロサ、もう一度飛んで欲しいの」
「チビは引き受けるけどそっちはなるべく自力で……頑張れる?」
「生きる事は冒険なの」
その時、山のものとは違うつむじ風が吹いた。
殿様はタロサと皇帝を後ろ手に庇った。
空気が違う。
髪が逆立ち、いつもは隠れている半分千切れた耳がむき出しになり、両の手の10本の指全部から長い爪を思わず出してしまう程だった。
唐突に風とともに現れたのは古木のように大きな、だが老人だった。
「お迎えに来ました、皇帝陛下。すぐお帰りを。もう倅ではご不在を誤魔化しきれません」
次回は最終回「また逢う日まで」です。(さびしいなぁ)




