第18話 龍は飛び立った
次回は第19話「木登りは裸足の方が良い」です
「ホッ!」
おババは右手で折れた杖を振った。
ドンドンドンドンドン!
杖を振った方向に一直線に派手な火花が上がった。
今度は杖を左手に持ち替えて振る。
「ハッ!」
ドンドンドンドンドン!
先のに並んでもうひとつ火花の線が出来た。
「これで今年の夏祭りの花火はねぇだ」
「やり過ぎですよ。あの人にここはもう懲り懲りと思わせたいのはわかりますが」
そんな事しなくても、とブツブツ言いながら殿様は目をカッと見開き笑顔を作った。
殿様が笑顔になると、めくれた唇から鋭い牙が見えた。
おババは殿様を見て嬉しそうに言った。
「それですだ。先々代によく似とる。だが爪はどうなされただ?やっぱり今でも自分の意志では出せねぇだか?」
「貴方に爪は出せない。出せる訳がない」
「リアリティーを考えなされ」
おババは殿様の背後を示した。
タロサにしがみついたジュニアがタロサに引きずられておババの家から出てきたところだった。
ジュニアでは背も力も足りなくてタロサを持ち上げてしまう事が出来ないのだった。
おババは両手を大きく広げ朗々と言った。
「オラは辺境候に仇なす者じゃ!長年仕えたのによそ者の女子を嫁にした先々代への恨みを今こそ晴らすだよ!」
◇◇◇
「また、その話が出ただ」
「おババが昔の殿様にに岡惚れしとったて話はだな」
と、一の長は頭を掻きながら言った。
「正しくは先々代のもう1代前だ。こねぇなトコで若ぶってどうするだ?」
「もう頭ン中でゴチャゴチャになっとるだ」
◇◇◇
おババが杖をハッシと投げつけ、殿様が手掴みに受け止める。
おババはくるりと背を向けスカートをつまんで駆け出した。
◇◇◇
「ありゃ、相当無理してるだ」
「おっ母は、いーつも腰が痛えの足が痛えのってこき使うだが、やっぱり嘘だっただ」
◇◇◇
殿様はこっちを窺う移動作戦本部の面々を見つけて叫んだ。
「おババは私が追うから、この人と子供を遠ざけて下さい。子供を近づけないで。タロサを抑えて」
「お客人、おババはボケちまいましただ」
大人が数人がかりでタロサを、しがみついているジュニアごと抑え込もうとしたので、ジュニアは「赤ちゃんに腕ずくはやめて欲しいの」だの「ボクはタロサじゃないから抑えなくていいの」だのと抗議した。
タロサは逆に、ジュニアがまるで大事な宝物で周りの大人が取り上げようとしていて、それに抵抗するかのようにジュニアを抱きしめた。
タロサの恐ろしい力で抱きしめられて、ジュニアはまたしてもムキュッと言った。
周りは躍起になってタロサをジュニアから引き離そうとする。
「あ、あ、あ、あー」
タロサは丸く口を開けて唐突に声を発した。
その途端、タロサの背中からまばゆい光がほとばしり、大きな翼を形作る。
(バサリ)
向こうが透けて見える光の翼だったが、一閃しただけでタロサはジュニアを小さな両の腕で抱きしめたまま、手を離した風船のように空高く舞い上がった。
人々はてんでに取りすがって捕まえようとしたが皆、バラバラと振り落とされた。




