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第17話 おババ、爆発する

 おババの嫁に勧められるままに仮眠したジュニアが目を覚ますと、おババの家の中は既にうす暗くなっていた。


 おババの嫁は後片付けを済ますと帰ったらしい。


 葬儀の支度があるのだろう。


 おババの家に独り残されたジュニアは眼鏡をかけなおしてロウソクに火を点けた。


 灯りがついてみると、タロサを抱いて壁際に立っている殿様の姿が現れた。


 「何してるの」


 「どう声をかけていいか分からなくて」


 ジュニアは眼鏡を掛け直した。


 「ボクもお悔やみを言ってなかったの。奥方さまは素晴らしい人だったの。お元気な内にお会い出来なかったのが残念だったの」


 「私はこれからこの子を育てなければなりません」


 「もちろんなの。全面的に協力するの」


 「あなたにそんな事をさせる訳には、いきません」


 ジュニアは殿様たちに近づいて爪先立ちになり、手を伸ばしてタロサのおなかをさすった。


 そして、ふむふむ、いっぱい食べてるの、とタロサに話しかけた。


 タロサは眉間にしわを寄せてジュニアを見ていたが、急に満面の笑顔になった。


 「タロサは2歳くらいだと思ってたの。でも、もう5歳だって聞いたの。去年の秋までずっと歩かなかったって事も。こんなに力が強いのにね。とっても不思議な子なの」


 降りたがって暴れるので、殿様はタロサを床に降ろした。


 タロサが力任せに抱きついたのでジュニアは潰れてムキュッと言った。


 「貴方はずっと寝てないの。いくら貴方でも疲れたらマトモに頭が働かなくなるの。そうでなくたって」


 ジュニアはジタバタと起き上がって言った。


 「あんなに素晴らしい奥方さまなの。亡くなったらガッカリするの。ボクならきっと何年も立ち直れないの。そんな時に急に1人でこの子の面倒をみようなんて無茶なの。貴方は良くてもタロサが可哀想なの」


 「違います」


 殿様は眉間にしわを寄せて口を開けたり閉めたり言葉をを探している風だった。


 「この子の母親は私たちの至宝です。いえ、でした。落胆はあります。でもあなたが考えているのとは違います。意地になっているのでも自棄になっているのでもありません。ただ、あなたの手を煩わせるのは筋が違うという、その」


 「気にするなら貴方にくっ付いて歩くのはもうやめるの。ボクはおババさまにお願いするの。もうしばらくここに置いてもらって、もっといろいろ教わりたいと思うの」


 「あ、貴方は、周りの方たちを安心させるため一度、帝都に帰った方がいいんじゃないでしょうか」


 殿様は裏返った声で言った。


 ジュニアはしょんぼりとうつむいてしばらく黙っていた。


 「分かったの。明日すぐ発つの。やっぱりご迷惑だったの」


 「まだ、半分もお見せしてません」


 「ありがとう。じゅうぶん見たの」


 そこへおババが家に入ってきた。


 「どうやって帰るだ。帝都の方面に都合良く向かうキャラバンは当分先までねえですだよ」


 「まっすぐ都に向かわなくていいの。他の地方を回り道でいいの」


 「それは次の旅先に向かうだけで、帝都に帰るとは言わねえですだよ。お前さまたちは、ベラベラ喋るくせにどうして肝心な事だけは言わねえだ。見ててイライラするだ」


 おババはカッと目を見開いた。


 「おのれ、素直に帝都にまっすぐ帰り、うちの殿様には召喚状を出すとでも言えば、まだ可愛げがあったものを。事ここに及んでこのババが黙って帰すと思うただか」


 おババは見た事もない背丈より長い木の杖を持っており、いきなり振りかざして3人に殴りかかった。


 殿様はタロサとジュニアを庇い、横に飛んでかわして、叫んだ。


 「おババ、血迷ったか?」


◇◇◇


 その頃、おババの家の外の物陰で中の様子を伺う人影があった。


 「一の長さまぁ、オラぁ早まったと思うだ」


 「始まっちまったもんは仕方ねぇだ」


 「やっぱり、これはおババの趣味ではねぇかと思うだよ」


 「花火の用意出来ましただ」


 一の長は頷いて厳かに宣言した。


 「皆の衆、作戦開始だ。これよりここは移動作戦本部とするだ」


◇◇◇


 一方、おババは休む間も与えず殿様たちに杖を振り下ろした。


 殿様はタロサとジュニアを抱えて右に左に逃げ回るだけだった。


 「ババが打ちかかっても、お前さまが2人に当てさせねえのは分かっとるだ。それ、目を開きなされ。牙を見せなされ。目を見開くのはのは威嚇、牙を見せるのは宣戦布告ですだ。まだ爪を自由に出せねぇなら努力不足ですだ。先代にお詫びしなければならねぇだ」


 杖が殿様の頭に当たり、大きな音を立てて杖が折れた。


 「おババさま、そんなにボクが嫌いだったなんて気がつかなかったの。ごめんなさい。怒らないでどうしたらいいか言って欲しいの」


 「私はおババの怒りも分かるんですが」


 と、殿様は頭をさすりながらぼやいた。「私を怒っているのであって貴方じゃないです」


 「そうですだ。お客人とは違う形で会いたかっただ。出来る事ならずっと手許にお留めしてババの知る事を全てお伝えしたいくらいですだ。お互い、巡り合わせが悪かっただ」


 「この子を頼みます。決して離さないで」


 タロサは明らかに怒っていて、殿様を押しのけて自分がおババに飛びかかろうとする。


 ジュニアはタロサに後ろからしがみついて、ダメなの、タロサ、と言った。


 「お父さんたちは本気で喧嘩してるんじゃないの」


 殿様はおババにタックルをかけて、遮二無二家から押し出した。


 そして声を殺しておババに言った。


 「この作戦はやらないって言ったでしょ?怪我しますよ」


 おババの囁き返した。


 「間違えてはならねぇだ。手柄はお客人に上げさせるだ。一番小せえ15番目の蔵だけを見つけさせなせぇ。アレひとつなら因業ババが独りでネコババしたで通るだ。あの蔵の中身にこのババの首を付けて献上し、残りの蔵は隠し通すだよ」


◇◇◇


 その頃、移動作戦本部には、2人がかりで運ばれてきたデカい包みがあった。


 「こったら所にこったらデカいモン持って来てどうするだ」


 「うまいところで客人の目を盗んでおっ母とこれをすり替えるだ」


 「て事はホントに作っただか?おババの死体」


 「土で捏ねただけだが、おっ母が自分でまじないをかけただ。もうバッチリ」


 居合わせた者たちは包みの端を少しめくって恐る恐る中を覗いた。


 全員が見た事をひどく後悔した。



次回は第18話「龍は飛び立った」です

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