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第15話 遠すぎた都

 

 もう8年前の事だ。

 

 吹雪の山中、彼は腹まで雪に埋まりながら足掻いていた。


 初めて歩く故郷の山道で、初めて会った土地の男たちに囲まれて歩く途中、誤って沢に転落したフリをして逃げた。


 生まれて初めての雪山。


 気が焦るばかりで前に進まない。


 そもそも山を越えるルートなど知らない。


 匂いだけが向かうべき方角を彼に伝えていた。


 だが山を越えたとしても、目指す場所までは広い川も大きな海も渡らねばならないのを知っていた。


 (泳いででも帰る)


 ずっと怪我と熱で朦朧とした状態で、漸く周囲の様子が分かった時は、既に帝都を遠く離れた船の中だった。


――帝都で反乱が起き帝都は封鎖されて、中にいる人々と連絡が付かない。


――首謀者の第六皇子は帝都に立て篭もり、それを包囲する鎮圧軍の総大将に祭り上げられているのは、行方不明だった第二十八皇子。


 情報の遅いこの地帯で、その話を聞いたのは前日だった。


◇◇◇


 貴方にはまだ分からないだろうが、とあの時、あの男は彼に言った。


 彼の片耳を千切った、古木のように大きな男だった。


――今は貴方たちが自由に旅を出来る状況ではない、これは我々大人が悪いのだ。済まないが今回は諦めてくれ。


――だが、貴方が今日、命をかけて守ろうとした大切な友人は、せめて私が命に代えても守ると約束する。


◇◇◇


 (嘘つきめ)


 本能的に服と靴を脱ぎ捨てる。


 身軽になった事で少し走りやすくなった。


 漸く熱が引いた耳の傷が開いて、溢れる血が点々と雪に赤い目印を残す。


 追いつかれた。


 頭から袋を被せられ、更に袋の上から縛り上げられるのを感じた。


 「後生だからおとなしくしてくだせぇ。この吹雪ではオラたちも死んじまうだ」


 袋の外から声がした。


 彼は唸り声をあげ袋を食い破ろうと暴れたが、身体にかかる重量が次々増えて、1人2人ではない人数に抑え付けられるのが分かった。


 (いたか)


 (初めての雪山でこんたら走るだか)


 (やっぱり血は争えねぇだ)


 周囲で男たちが口々に話しているのが聞こえた。


 「この時期の山越えは本当に危ねぇだ。お身体の弱い弟さまにはさせられねぇ。弟さまはおっ母さまがご一緒だ。ここだって帝都の混乱に乗じて攻められたら戦場になりますだ。帝都に残られる弟さまとこっちに隠れる若と、どっちが良かったかは、後になってみなけりゃ分からねえだよ」


 (早くするだ。また吹雪いてくるだ)


 やや離れたところで叫ぶ声が聞こえた。


 「よろしいか。抑えとる手を放して背負いますだよ。暴れたら背負っとるモンも一緒に落ちて死んじまうだよ」


 彼はそれでも長く唸っていたが、暴れるのはやめた。



この数年の年中行事になっていましたが、今度こそリアルでお葬式になりそうです。

今後、更新が遅れたらそういうことです。


次回は第16話「長老会議その3、あるいは、アンタこの子のなんなのさ」です。

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