第14話 長老会議その2
「あのお客人は普通でねぇだ。土くれをちょっとなめただけでそこにどんな草の種が何粒あるか分かるだよ。長居されると、この土地の本当の収量が早晩バレてしまうだ」
「今年の『ドラゴンの寝息』が強かったのも、追っ払おうとしたのではねぇだべか。お山にはまだ人が触らねぇ方がいいモンがいろいろ多いだ」
「今からでも帝都に正直に申し上げるわけにはいかねぇだか。近い内に凶作が来るから食い物を貯めておかねばなりましねぇ。実は前から蓄えを始めてましただって」
「根拠はなんて説明するだ。おババがそう予見したからだって言うだか?それで通ったら苦労はねぇだ」
「おババがもうちっと世間に信用されとりゃ良かっただ。昔から他所者がおババの予見を調べに来るたんびに、わざわざホラ吹いて追い返したのがいけなかっただ」
「オラ、大きな変事があるとは言ったが凶作だとは一言も言ってねぇだ。予見する者は見たマンマを伝えねばならねぇだ」
おババはきっぱりと言った。「オラはホラなど吹いた事はねぇだ。間違えた事はあるだが」
座は一瞬、水を打ったように静かになり、次にみな口々に喚きだした。
「いけしゃあしゃあと何て事を言うだ」
「もうそれは分かっただ」
「先が見えると怠ける、為にならねぇってしょっちゅう言っとるでねぇか」
静かにするだ、と座を制したのは、『一の長』と呼ばれるひときわ年をとった長老だった。
皆は口を閉じてタロサを見た。
タロサは殿様の尻尾を握りしめたまま、母親の傍らで眠っている。
「ともかく先に話を通して備蓄しとったのならまだしも、もうだいぶ貯めこんでしまっただ。今更見つかったらやっぱり後付けの言い訳にされて没収されると思うだ」
「話を通すも、ついこの間まで政権が変わって大混乱しとっただ。誰に話を通せばよかっただ?」
「没収だけならともかく、謀反準備の疑いをかけられたら厄介ですだ」
一の長が言うと、殿様は長いすねを抱えてのんびりと答えた。
「まぁ、いざとなったら私が皆さんを脅して私腹を肥やしてた事にする約束じゃないですか」
「それで新しくよそ者が領主さまになってここに来るだか?」
一の長の言葉に殿様は少しうつむいてため息をついた。
「やはりこの歳で十六歳を騙るのは無理がありましたよ」
「もうちぃと経ったら少々老け顔で通るだよ」
「その顔の毛があるで、今だってよくわからねぇですだよ」
「こねぇな事はあの頃、どこの殿様でも多かれ少なかれやった筈ですだ」
「今更だが、先代が亡くなった時、弟さまの名を借りず、そこだけでもはっきりさせておけば良かっただなぁ」
「殿様は、帝都に閉じ込められたまんま陽の目に当たらず亡くなられた弟さまがお可哀想で忍びなかっただけだろが」
「そりゃ弟に父上の跡を継がせて私がその影になれていればもっと話は簡単でしたがね」
殿様は他人事のようにのんびりと話す。
「私は跡取りなのに当時の禁を犯して帝都を抜け出した事があるし、後の皇帝陛下の命を危険に晒した挙句、封鎖直前の帝都から死んだふりをして自分だけ逃げ出したし、更に弟の名を騙って辺境の領主に収まった奴です。この上、新政府の目の届かない辺境で良からぬ事を企んでても全然おかしくないですよ」




