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第13話 長老会議その1

 

 「英雄の息子さま、少し休みなせえ」

 

 ジュニアに声をかけたのは中年のオバハンだった。

 

 「おババの嫁でごぜぇますだ。ずっとお手伝い頂きましただが、これからの葬式がまた長ぇですだ。横になってもらえと言いつかりましただ。一度オラがおっ母の家に戻りましょう。始まる段になったらお連れしますで、どうかオラたちと一緒におひいさまを見送ってくだせぇ」

 

 おババの嫁は大きな風呂敷包みを背負っている。

 

 この数日は泊まり込んでいたおババが持ち込んだ道具類や使い残した薬らしい。

 

 「オラたちが使いモンになりませんので、大事なお客さまに手伝わせてしまいまして、ホンに申し訳ありませなんだ。会ったばかりの貴方さまに、おっ母が薬の合わせをいきなりお願いするのは今までになかった事ですだ。ホンにご苦労をおかけしましただ」

 

 殿様は他の老人たちとご遺体を囲んで何か話していた。

 

 ジュニアはそんな殿様を振り返り、屋敷を後にした。


◇◇◇


 母親の遺体の横で眠るタロサを起こさないように、殿様や老人たちは声を抑えて話していた。


 「まぁ、この子には良い後見が出来ただよ」


 「オラたちでは、この子が大きくなる前に死んじまうだ」


 「でも私には神の事を何も伝えられません。食べ物をあてがって背丈を伸ばすくらいしか」


 「なぁんも。神様が小言がおありだったら嫌でも誰かに聞こえてくるだ。この子が神様のお声を聴かにゃいかんて法はねえだ。元気に大きくなれば後はこの子の好きにすれば良いだよ」


 「それにしてもこれからはこの子を連れて歩くだか?」


 「そりゃ殿様が決める事だ。丈夫過ぎる子だで、じきに殿様が付いて歩くのに苦労するようになるだ」


 「当面どうしなさるだ。この子とあのお客人を連れて歩くだか?」


 「それはあの人次第です」


 そこへおババが、タロサが眠っているのを確かめながら、用心しいしい入ってきた。


 「やっぱりオラの倅はまだまだ半人前じゃ。何が都から伝説の英雄さまが来るじゃ。来たのは息子さまの方ではねぇか」


 おババは大袈裟にため息をついて首を振った。


 「そういうおババは都から客が来る事さえ予見できなかったでねぇか。寄る年波には勝てねぇだ」


 「もう間違った予見はオラ、当たったのはおっ母、それでええだ」


 「息子とは言え、そもそも話に聞く伝説の英雄さまに似てる風でねぇだ。あれは本物だべか」


 「それについてはまぁ本物だと思うだ」


 そう言ったのは『老兵』と呼ばれる老人だった。本来、長老会議に出る者ではない。長らく先代に付き従い、先の戦争の際、帝都で伝説の英雄とも会った事がある人物だった。


 「あの頃の伝説の英雄さまは嫁さまとお子を連れておられただ。この度のお客人みてぇに小さい嫁さまで、母親似の小さい男の子もいただ。あの時の子だとすれば辻褄は合うだよ」


 「伝説の英雄さまなら戦後も、まだ収まらない紛争の始末をつけに、あちこちを巡られとったと聞くが、ここに変な騒ぎはあったべかなぁ」


 「わし等は後ろ暗いから困っとるのに、自分からそれを言ってはならねぇだ」


 「やっぱり殿様が都に長いこと行かなかったのは疑われてるのでないかな。いくら新しい皇帝陛下のご方針が昔と違ったからと言っても、3年も領地に籠ったままは長すぎただ」


 「そりゃあ、代々勇猛果敢獰猛無双で知られるオラたちの領主さまが、辺境の領地に引き籠ってたら、何を企んどるんだろうと、帝都の皇帝陛下は恐怖に恐れオノノいてもおかしくねぇだよ」


 「道中、何かあったらと一番引き止めたのは、おババでねぇだか」


 「なんぼなんでも年に一遍は都に出張って皇帝陛下にご挨拶しろだの、無茶苦茶だと思っとっただ。今でも帝都までの道中、恐ろしい魔物が出るところはいっぱいあるだ」


 「父上は風邪を引いて亡くなったんですよ」


 「頑丈さでは並ぶ者のなかった先代だって、あの度重なる帝都とこことの往復で、間違いなく寿命を縮めただ」


 「まぁまぁ、結局来たのはお子の方で、しかもただの観光だっただ。殿様がつきっきりでご案内しとるし、余計なモンは気づかれずに済みそうでねぇか」


 「それがそうでもねぇかもしれねぇ」


 そう言ったのは、おババだった。



次回は第14話「長老会議その2」です

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