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第12話 みんなが奇跡を祈ってた

 

 おババは病人の日々の薬の調合をジュニアに手伝わせた。


 だが痛みを和らげるだけの薬だった。


 ある成分を、おババは心持ち少なめにしていた。


 「これ以上入れると眠ってしまいますだ」


 「ちょっとでも眠れた方が良くないの?」


 「病人がそう望みましただ。ちょっとでも長く子供の姿を見ていたいですだよ」


 タロサは時々散歩に連れ出される以外、大抵は母親の傍らで過ごした。ただ、おババを見ると手近の物を投げつけたり、わざわざ寄ってきて小さな拳で殴りつけたりした。


 従っておババが病室に入る時は先に連れ出された。


 「早くいつものように母親を治せと催促してますだ。何をモタモタしとるか、くたばり損ない、と、このババを怒っていますのじゃ」


 人々はそれぞれ用事を片付けては戻ってくるらしく、見た顔だが入れ替わりが多かった。


 そして屋敷の前の人数は増える一方だった。


 皆が病人が快復する奇跡を祈っていた。


 そして何日目かののどかな昼下がり、とうとうおババが殿様を手招きした。


 殿様は病室に入りタロサを膝に乗せて座り軽く頭を下げる。


 病人は微笑んでタロサの頭を撫でている。


 おババが低い声で祝詞を唱え、殿様が時々誓いの言葉を口にする。


 病人も誓ったが口が少し動くだけで既に声はほとんど聞こえなかった。


 こうして結婚式は簡単に終わった。


 タロサは小さな手で母親の腕をピタピタ叩いていた。


 そしてその日の夕闇が忍び寄ってきた頃、殿様がタロサを抱いて家から出てきて、集まった人々に告げた。


 「たった今……」


 殿様は一旦口を閉じ、しばらく奥歯を噛んでいる様子だったが、やがて言った。


 ――たった今、妻は山に還りました。


 ――私は遺されたこの子を生涯をかけ全身全霊で守ります。


 ――皆さん、どうか見守って下さい。


 人々の間にさざなみのように嗚咽が拡がり、すぐに号泣の波が来た。




次回は第13話「長老会議その1」です

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