【3】
明朝。
空は雲一つ無い晴天。
心地よい風が吹き、黒と純白の髪を揺らす。
「——という事で、本番は明日。さぁ、特訓するんだわ」
元気いっぱいに、ルナは言い放つ。
彼女の目の前に立つ二つの獣は、この上なく嫌そうな顔で互いを見合わす。
「あなた達が頑張らないと、わたくし達。もう近場の動物園を襲撃しないといけなくなってしまうのよ」
ローズは如何にも困っている。と言った表情を浮かべる。
「……我々に、見せ物になれと——おっしゃるのですね」
純白の髪をもつ青年は、物悲しそうな視線をローズへ向ける。
「仕方ないじゃない。わたくし達だって、こんな事になるなんて思ってもいなかったんですから。これも仕事なの。それに、いつもその姿なんですから。たまにはあなたのその美しい毛並みを見せびらかさなくちゃ。わたくしの半身が、どれほどの美か——。希少な純白の狼。あなたが姿を見せただけで、きっと大盛り上がりよ。ね、一緒に——拍手喝采に包まれましょう」
「はい! 喜んで!」
「うっわ。ちょろいんだわ笑」
元気っぱいに尻尾を振る姿が安易に想像出来る返事に、ルナは笑いを隠せない。
「あ、あの——ルナ様。ぼくは……」
「あークロたんは、いつもの感じでいいっしょ。魔女の相棒といえば黒猫なんだわ」
「でも——猫は猛獣ではありません」
「そーなんだけど。あっちがセクシー担当だからこっちはキュートでも問題ないっしょ。猫ってさ、芸覚えないじゃん。でも、芸のできる猫って、めちゃくちゃ可愛いじゃん。いつにも増して可愛いじゃん。あざとくいけば、皆んな虜になるって。大丈夫。猛獣なんて大抵猫科なんだから。鳥からすれば猫だって猛獣だって。って事で。ほら、早く変化変化」
促されるまま形を変える。
小さく。小さく。
やがて、足元には一匹の黒猫。艶やかな漆黒の毛並みに、スラリとした尾。
金色の瞳は、ルナを見上げる。
「ぎゃークロたん可愛すぎるんだわ」
ルナは黒猫を抱き上げ、その腹に顔を埋める。
「る、ルナ様ーくすぐったいですよー」
「スーハースーハー。猫好きにはたまらん」
猫は身を捩る。
「や、やめてくださいー」
「何をしているんだか。ルナ。ほら、始めるわよ」
ローズの言葉で猫吸いをやめたルナの前に、大きな真っ白の狼が現れた。四メートルにもなる狼の姿は、猛獣に相応しい体躯をしているが、その瞳は優しい。
空色の瞳は穏やかな視線で黒猫を見つめる。
「相変わらずでっかいんだわ。フランネル。こんなでっかい狼現れたら、びびって逃げるんだわ。合格」
「なーにが合格よ。遊んでないで、練習するわよ」
二匹の獣と二人の魔女は、サーカス本番に向けて特訓を開始する。




