【2】
「よっし。ひと狩り行きますか」
ルナはおもむろにゴーグルを装着する。
「野生動物保護法に引っかかるわよ。ったく、困ったものね。サーカスだから虎とかライオンとか他にも猛獣が居ると思ったんだけど、危ないからからねって——嫌、得体の知れない猛獣ひとつ返事で貰っておいて、良く言うわよったく」
ローズは、文句を垂れ流した後、十時のおやつにと頼んだコーヒーを口に運ぶ。
「どうしたものかしら。芸を仕込む時間を考えると、明後日ってなんてとても間に合わないわ。何処かに、言う事聞く猛獣落ちてないかしら」
今度はチョコレートケーキを口に運ぶ。
「ルナ。狩りには行かないから、ゴーグル外しなさい」
「——はっ。分かったんだわ」
「何がよ」
「ふふん。居るんだわ。ものすごーーーーーーーーーく、言う事をきく猛獣」
にやりと笑うルナを見たローズの勘が働く
。
「あ〜そうね。居たわね。とても身近に」
「うんうん。すっきりしたんだわ。気が楽になった事だし、さーて頂きまーす」
ルナは笑顔で、頼んでいたロイヤルミルクティーとスコーンを頬張り始めた。
夕刻。
サーカスに戻ると、団長は誰かと話をしていた。
白いローブ。あれは、魔法庁の証。
通報の件だと察しがつく。
「っす。お疲れ様でーす」
「通報したのは、君達?」
「ええ」
ローブの下から覗く顔から、中堅みを感じる。声は渋く、やや威圧感がある。
「確認の為、少しお時間頂いても?」
断る理由はない。
彼等もこれが仕事だからね。
「それじゃ。免許証出して」
一通り話を聞き終えた後。提示を促される。
「ほーい」
魔法登録証。
これが無いと、魔法は使えないし、営業も出来ない。
「へー。ゴールド。無違反なんだ。ちゃんと教習行ってる?」
「行ってますよー。行かないと更新出来ないじゃないですかー」
「ふむ。それが分かってれば良し。えーと。ランクは……ほ、星Ⅴ……最高ランク——」
男は目を見開きルナの顔を見た。
「意外?」
にたっと笑う。
「——し、失礼。お名前を控えさせて頂きます。ルナ・ロード・み、み、ミラージュ……」
ルナの名前が、男を震わせた。
「あー。やっぱこうなるんだわ」
「ごご、ご、ご息女で、い、いらっしゃいますか——」
「まーね。あんま気にしないで欲しいんだわ。凄いのは、パパとママであって、あたしは——ほら。ただのしがない便利屋みたいなもんだからさ」
手を震わせながら、登録証を返却する。
「無理もないわよ。あんたの父親。魔法庁のトップなんだから。はい。わたくしの魔法登録証よ」
「……こちらも、ゴールド。……ランク……星IV……ローズ・ウル・ら、ランセル——も、もしや軍師長のご兄妹で?」
「いかにも。ランセル兄弟はわたくしの双子の兄弟。ですが——兄は兄。わたくしは、わたくしですの。そう気にする事はありませんわ」
「気にしない方が……難しいでしょうな……。何分。上下関係には厳しい職場ですので。はい。大体の事は分かりました。お二方にはお時間を取らせてしまい、大変申し訳ございません! 今回の件は、全力で、それはもう全力で! 責任を持って! 我々が調査させて頂きます! ご協力ありがとうございました!」
苦笑いの後、直角に頭を下げた男は、それはもう足取り早く帰っていった。
「まぁ、これであの子の件は大丈夫そうね」
「そーさね。ま、魔法庁の人に頑張ってもらうしかないんだわ。あたし達は、あたし達のやる事があるからね」




