【9】
一連のダリア騒動の真相は、ただ一人の竜種による奇想天外な事実で幕を閉じようとしていた。
「ところで、城は何処に買ったの?」との何気ない質問の答えにルナとローズは動揺する。
場所はルナ達の住む麓街アマリスの隣。アルカナの山奥。つまりはお隣。
「まぁ——でも、こっちの世界に来るなら、ちゃんと免許取らないとなんだわ。ちなみに、学校行ったことは?」
「ないな」
「やっぱり」
どうする?
と、局長と視線を交える。
「——兎に角、一度報告致しませんと。ブラックダリアなる薬と、魔法の気配が消える竜の衣は、指定が入る代物に見受けられますから。お咎めなしとはいかないでしょう。竜種との話し合いも、必要かと」
結果は良くとも、過程には問題あり。男の行く末は、魔法庁の判断に委ねられた。
「——でも、なんでまた国を出ようなんて、思い立ったんだわ?」
「昔、爺さんが言ってた。人間の世界には、面白い物が沢山あるってな。それを——見てみたくなったのだ。引き篭ってばかりでは、何も見えんからな。竜の衣は、きっとその為にご先祖様が遺してくれたのやも知れん。ま、真意はわからぬがな」
それからルナ達は、ヒノアカ国を観光した後、帰路に着いた。
十日に渡る旅には、ミサキも同行した。事の真相を聞いた彼女は、気の毒そうにごめんと呟いた。ミサキ自身も今回のような結果になるとは思っていなかったようで、安堵と同時も束の間、動揺する表情を浮かべていた。無理もない。当のルナ達でさえ困惑したのだから。
彼女達が、彼——アシッドの処遇を受け取ったのは、旅が終わる日の事だった。知らせを届けてくれたのはペリカだ。
十人もの人間を誘拐拉致しようとした罪においては、彼らが不都合なく日常に戻れた事により減刑。不在時の給料を彼が支払う事で纏まった。
そして、例のブラックダリア。
どんな悪人をも作り出せる黒い薬は、すぐに特定危険薬物リスト入りを果たした。竜種が他の種族と関わりを持たなかった事により、ひっそりと咲いていたその花は、魔法庁の視線を一身に集める存在となった。
竜種の王子だったアシッドが橋渡役となった事で、ブラックダリアは魔法庁の管轄となり調査が進められる事となる。そして、その代わりとして、アシッドは魔法学校への入学を認められた。何をしでかすかわからない。目の届く範囲に——という事だろうが、本人は人間の世界に興味があるが故、不満には思っていないとの事。
大変なのは、学校に入ってからだろう。人間関係は複雑だ。それこそ、竜種というだけで避けられる事は目に見えている。
「——大丈夫なのかしら、本当に」
あの気質で上手くやっていける気はしない。「さぁ……でも、本人が世界を見たいと言ってるんだ。色々見て感じて。それから自分で決めればいいんだわ。悪い事じゃない。一つの殻にとどまっているよりはね」
確かに出だしは悪かった。褒めれた所業じゃない。でもそれは、きっと世界を知らなかったからなのだろう。彼は、彼なりに世界を知ろうとして、その一歩を踏み出したのだ。
「それで、ペリカはどうするんだ?」
「はい。私が魔法庁に入った理由は、六百年前の真相を突き止める事でしたが、今回の事件で解決しました。ですが、新たにアシッドのお目付け役を仰せつかりましたので、暫くはこちらの世界に留まります。かの妖精が再び悪さをしないように、目を光らせないといけませんので」
「そっか」
ルナはペリカとミサキの肩に手を回す。
「それはそれとて——明日には帰るんだから、今夜はパーっと飲みあかすんだわ」
「賛成!」
魔女達の影は、騒めく都会の一角。華やかな店へと静かに消えていった。




