【7】
「そうだ。お前の思う様にはさせない。同じ妖精として、お前を捕らえる!」
ペリカは生真面目に返した。
「貧弱なエルフが、大口を叩くではないか」
男は、更に一歩前へ乗り出し、竜の衣を脱ぎ捨てた。すると、今まで押さえ込んでいた魔力が湧き溢れ、ペリカは圧倒され後退りする。
「どうした。捕らえるのではなかったか?」 ——格が違う。
竜種とは、これ程に差があるものなのか。感じ取った限りでは、ランクⅤ以上の魔力の量。
「まぁ、仕方のない事だな。俺以上の魔力を有する者は存在せん」
——なんか腹立つんだわ、あいつ。
——ほんと。まじムカつくわ。でも、どうするの? 確かに魔力は凄まじい。単純な魔力量だけみると勝ち目はないわね。ほら見なさい、ルシアンなんか、モモコの後ろで怯えているわ。
——あー……うん。ちょっと刺激が強すぎるもんね。立ってるだけ良しとするんだわ。
苦笑いを浮かべる。
「何もしてこないなら、お手伝いさんは連れて行く」
男はそう言うと、竜の姿へと変化した。
その鱗は漆黒。腹は紫。銀の鉤爪。
巨なの姿に一同は唖然と竜を見上げる中、ルナだけはにっと笑った。
「——しゃーない。クロたん」
「はい。ルナ様」
「本物の——竜の魔女ってやつを見せつけてやるんだわ」
ルナのお許しが出た。
クロは、己が真の姿を現わす。
鱗も腹も鉤爪も、全てが漆黒。そして、その双眸だけが金色に輝く。その巨躯は、竜種よりも一回り大きい。
「——は? 嘘だろ……なんで、俺以外に竜が居るんだ?」
ルナは箒に立ち、クロの顔元まで行く。
「あたしの使い魔さ。生まれた時から一緒のね。どやさ、恰好いいだろ。見なよ、この硬くて艶のある鱗。強靭な爪。美しい羽。愛らしい目。ちなみに、ブレスは炎。勝負してみるかい?」
不適な笑みを浮かべるルナの挑戦を、男は受けた。
「あたしが勝ったら、お手伝いさんは没収するんだわ」
「いいだろう……。俺が勝ったら、お手伝いさんはもらって行く」
——でしょうね。心の中で呟く。
「——いい、クロたん。命取らない程度にね」
ルナはクロにそう命じ、分かったと唸り声で答えた。
二頭の竜は、一斉に口から炎を吐き出した。魔力を含んだ炎がぶつかると、爆風で川の水は干上がる。魔法で防御壁を作り出しても、竜の魔力には到底及ばない。
「——あっつ」
周囲の景観を損なわないように努力はしても、火力腕や頬に裂傷が起きる。勝負は一瞬だったものの、瞬間火力が大きすぎたのだ。炎が消えた後、素早く応急処置を施す。
「——あたしに勝とうなんて、百年早いんだわ。小童が。って、言ってみたい台詞だったんだよね。言ってもいい?」
「…………もう、言ってるではないか。あんた強いな。竜の魔女か——」
「いや、悪いけど、まず服着てくんない?」
全裸で大の字に寝転がる男に、投げ捨てられていた衣を上から掛ける。
「おまえ、いい女だな——気に入った。今から俺を下僕として扱う事をゆる——」
「お前みたいなポンコツ要らないんだわ。家事全般出来るようになってから言うんだね。この、すっとこどっこい」
ルナは真顔で毒を吐いた。
——言うではないか。
男は頬を赤くするが、暗がりにかき消される。
一瞬の勝負の後。
敗者となった男は、言われるまま、素直に衣を着込む。それから、手首を魔法で拘束される。
ルナ達は改めて話を聞く為に、魔法局へと移動して行く。




