【6】
深夜二時。
微かな気配に飛び起きたペリカは、駆ける。今度こそ、逃しはしまいと——。
だが、既に遅く。
十人の被害者は忽然と姿を消していた。
——そんな、あり得ない! 動ける状態ではなかった筈だ! それに一気に……一体何が⁉︎
ベッドの上に手を置く。
「まだ暖かい」
周囲を素早く見渡し、耳を澄ませる。すると僅かに小さな笛の音。
「——正面!」
まさか、真正面から?
笛の音を追いかけてく途中、見張りをしていた者が気絶しているのを目にする。
「すまない、今は時間が無い」
そのまま通り越し、再び音を探りながら走り出す。途中、ルナと局長へ事態の急変を知らせる。
宿に着いてからずっと考えに耽っていたルナは、熟睡する事が出来ずにいた。ペリカからの知らせを受け、ローズとルシアン、そして使い魔を叩き起こしてペリカの後を追った。
街を離れ、川沿いを進み、開けた河川敷で音は止んだ。
不思議なことに、被害者達は黒いコートを被り、自らの足で立っていた。
「——へぇ、こりゃ確かに異常事態なんだわ」
箒から飛び降りる。
「すみません。間に合いませんでした」
ペリカはルナ達に向かい謝罪した。
「大丈夫。間に合ってるわよ」
ローズが声をかける。
「そうそう。あれでしょ、今からそいつを捕まえれば、問題なしなんだわ」
ルナは言いながら魔法を一撃放つ。
「……ふーん。やっぱ魔法使いじゃん。でも、妙なんだわ。魔力の気配がしないってのが」
確かにルナの魔法を防いだ。だが、その黒い衣を着た者からは、魔法の気配が無い。
宵闇に、漆黒の衣。
一歩、二歩、三歩と前進し、月光がその者の姿を照らし出す。
ただの漆黒に見えた衣は鱗で出来ていた。光を浴びて、艶を放つ衣の下。フードを脱いだその者の頭には二本の黒い角が生えていた。ペリカが言った通り、竜種の妖精。
肌は白く、髪は黒く長く、三つ編み。赤き瞳には縦長の瞳孔。その目に睨まれているで、緊張感が走る。
「——こんな大事にするつもりなかったんだが。ゾロゾロと魔法使いがひっきりなしとは」
青年は残念そうな声を出す。
「それに——誰かと思えばエルフのお嬢様まで。態々人間と同じ格好までして追いかけっことは。難儀よな」
逆撫でする言葉を吐く。今にも襲いかかる気満々のペリカを、ルナは宥めた。
「それは——竜の鱗?」
ルナの問いかけに返事はない。
「多分、それが魔力を隠してる気がするんだわ。違う?」
ルナは男の身につけてる衣を指差す。
「そっちの人達もそう。動ける状態じゃないのに動いている。って事は、何かしらやったのを隠す為なんじゃないかって事だわ」
男は口を開かない。
「その便利な物があれば、六百年前にダリアの原材料を盗む事だって出来たんじゃないかって話なんだわ」
黙ってルナの推察を聞いていた男の口元が緩む。
「——勘がいいな。ま、そんな所だ」
「それで、その人達はどうするつもり?」
「あぁ、これか? そりゃ——お手伝いさんだ」
「は?」
「必要だろ? 一人暮らしには。右から紹介する。料理人にメイド三名、洗濯担当に掃除担当。庭師に送迎、ペットの世話人に執事だ。城を買ったのはいいが、家事は出来ん。ヒノアカの人間は働き者だと聞いてな。無論、賃金は出すつもりだ。無下にはせん」
青年は堂々とした態度をとる。
——ちょっと、ルナ。
——落ち着けローズ。何も言わないでほしいんだわ。
——ちょっ、だって、あれ。……相当なお馬鹿さんなんじゃないの?
——だーからー言うなって。今あたしは打ちひしがれているんだわ。
——どーするのよ。要は使用人って事でしょ。普通に募集して雇えば済む話じゃない。なのに、こんな……。て、ゆうか魔法使えるなら、そもそも——。
——言わないで。それ以上何も言わないでほしいんだわ……。
「おい、何を話している。よもや、俺からお手伝いさんを奪おうとしている算段ではあるまい」
ルナとローズは顔を見合わせた。




