【5】
概ね、予想通り。
一夜の夢は、この上なく上手くいった。ただ予想外な事といえば、思いのほか王子がエルにゾッコンラブになってしまった事だ。
片方だけの硝子の靴を抱え、この靴を履ける者と結婚する。なーんて言い出したものだから、王宮は壮絶となった。
あまりに大きな硝子の靴は、オブジェです。この様なサイズ、女性用ではありません。オブジェです。と言い宥められたが、熱意に押され、結局の所花嫁探しとなった。
その頃の姉二人はというと、ローズの話術により妹耐性を得るべく修行をし、今では少し顔を合わせる機会が増えていた。
何より、硝子の靴が妹の足にジャストフィットした時は、何故かこの上なく喜んでいた。それも、ローズの入れ知恵。
あの二人から産まれる子は——さぞ美青年でしょうね。羨ましいわ。だって、叔母さんになれるのでしょう? 小さい頃から大きくなるまで美青年の成長を見守れるなんて、なんて役得。しかも、見てよ。あの美青年&美青年。最&高。
とまぁ、薔薇? の布教もあって、新たな扉に片足突っ込んだ姉二人であった。
心配だよ——この先が。こればっかりは、ローズの責任。二人の結婚相手まで見つけてあげるのが筋って事で。
結婚式は、まぁ見に行ったよ。
実質、あたし達はキューピットだからね。
ローズなんて、花嫁が花婿に見える魔法使って、ブラボーって言いながらずっと拍手してた。まじ完全に自分の趣味に走ってたんだわ。
とまぁ、なんとか全部丸く納まった。
対価も、当初の金額プラス王子様からも、素敵な出会いをありがとうって事で、そりゃあもう。ね。頂けるものは頂いた。
世の中お金がないと、なーんにも立ち行かないからね。
夢も希望もない話なんだわ。
そして、あの硝子の靴も片方くれた。まぁ、サイズなんか当然合わない。だから、その飾ってあるよ。ちゃんとね。
ルナは台帳に記す。
魔法なんて、ちょっとしたきっかけに過ぎない。少しだけ、歯車を回すのに必要な、一つの螺。
螺一つ。それだけで、世界はゆっくりと動き出す。
追記
でも、回しすぎには要注意。
「っと」
そっとペンを置く。
「ご苦労さまでした。ルナ様」
「クロたん。紅茶あんがと」
「ミルクと砂糖マシマシです」
「流石。気が利くなークロたんは」
少年は優しい笑みを浮かべる。
静かな夜。
魔女の城の一室。
蜂蜜色の瞳が二対。ゆらりと煌めく——。




