【3】
妖精種と一括りにしても、その実は複雑だ。精霊、獣、小人そして竜。大きく分けてこの四つ。その中でも分岐していき、多種多様。ペリカは精霊のエルフに属するという。妖精種は、互いの領域には立ち入らない、干渉しない事を暗黙の掟としている。長く争わずに生きてきた処世だ。その掟が破られたのが、人の争いに巻き込まれた時だった。妖精国に無断で入り、各地を荒らしまくる人に怒った妖精達は、その手に慣れない武器を持って追い払おうとした。けれど、結局の所傷つくのは妖精達で——。
ダリアの原材料は、エルフの住む地に生息していたという。小さな池の周りに咲く淡いピンクの花。
善意であった。
種族は違えど、同じ妖精なのだから。
こうして、傷を負った妖精達に薬を分け与えた結果——。
ダリアは、人の目には魔法の薬のように映った。瞬く間に傷が治る。いつしか延命長寿の尾鰭がつき、自由気ままに泳ぎ出した。ダリアが欲しいと請われた時に拒絶していればこんな事にはならなかった。だが、妖精国の為に尽力してくれた者の懇願には、心根の優しい妖精には断れなかった。それに、その時には毒になるとは思ってもみなかった。
初めは、いつまた争いに巻き込まれるかわからないと、ダリアの処分を断っていたが、今後一切との締約に妥協した。
処分は明日。そう言われた夜の事。俄かに感じた気配が一つ。
「——気配?」
「はい。私は当時、その池の付近で暮らしていました。急いで外に出た時には既に気配も痕跡もありませんでした。ですから、緊迫した状況からの錯覚だと。池も花も変わった様子はありませんでした。ですが、今日の事柄を耳にし、いつぞやの気配が関係しているのではと」
ルナはペリカを見つめる。
「……思い返せば、不思議なのです。妖精国は、そもそも簡単に人が立ち入れる事はありません。視覚的にも感覚的にも妖精国は認識されないようにしていますから。それなのに、湧くように人間が入り込んできた——」
あぁ、確かに。と、ルナは心中で頷く。
「それで、六百年前の巻き込まれから、誰かの仕業なんじゃないかって、思ってるわけなんだわ」
「はい」
力強い返答。
「で、ズバリ心当たりは?」
ペリカは一度目を伏せ、深呼吸をする。
「——大昔。妖精国には、とても大きな力を持つ魔女が居りました。竜の種族の者です。昔は今と違って人間の国との境目はありませんでした。それでも、うまくいっていたのです。彼女も幼少期は人間と遊んだり仲良くしていたそうです。しかし、時は流れ、彼女が初めて竜の姿を表した時。人間達は彼女を恐れるようになりました。漆黒の巨体は、それだけで畏怖の対象となり、やがては彼女を疎うようになる。ことごとく仲間はずれにされる。挙句、とある王国の姫が産まれた時も、他の妖精は呼ばれるのに、彼女だけは呼ばれない。除け者にされ傷ついた彼女が、人間や他の妖精を嫌うようになるのに、時間はかかりませんでした。この時の確執から、竜の種族と他の妖精種は折り合いが悪いのです。元々干渉しない掟はありますが、六百年前の時も、竜種だけは、一切関わりを持ちませんでした」




