【1】
早朝、一通のメールが届く。
通知音が鳴り、ルナは急いでメールの内容を確認する。送り主は、魔法庁内部の魔法医薬学省に勤める母からだ。
「——やっぱり」
内容に目を通したルナは、自室の椅子に深くもたれかかる。
テーブルには、魔法書や薬学書がいくつも積み重なる。
「五百年前、確かにこの薬は実在していたんだわ」
お茶会以来、丸三日。ルナは自室に篭り複数ある本棚から関連のありそうな本を読み耽っていた。ミサキの話。それに近い症状を、どこかで目にしたような気がしていた。どの本だったかは思い出せず、こうして手当たり次第に探っていた。その中で見つけた本「禁術禁忌薬学書」に、同様の症状が載っていた。
表題通り、禁術と禁忌薬の本。
現在この書物に書かれている薬を作ろうものなら、問答無用で捕縛され重い罰が課せられる。
付箋をつけていた頁を開く。
薬名「ダリア」粉体で色は淡いピンク。効果は延命長寿。ただし、妖精種のみに効果あり。これを飲むと、風邪も引かず怪我もたちまちに治る。強く長く生きられる。妖精にとっては万能薬。しかし、その他種族が誤飲した場合、魂魄は抜け落ち虚となる。
そう——。かつても同じように延命を望む人間がダリアを飲んで空となった。だが驚くことに、その体は確かに延命長寿となった。虚な肉体のみが生き続ける、ただの地獄だ。
そもそも、ダリアを生成するために必要な花は、妖精の国にしか咲かない。妖精種は、基本的に人と関わりを持とうとしないから、その時まで薬の存在が表に出る事はなかった。元々妖精種は長命だし、薬が無くても問題は無かったのだが、六百年程前に起きた大きな百年続いた争いに巻き込まれ、負傷者が出てしまった為にダリアが生まれた。
経緯を知ってか知らずか。
ダリアの噂は、寿命の短い人間には魅力的すぎた。なんとか薬を手に入れようと、妖精国の復興に力を入れた人間も多く居たという。そうして近づき、ダリアを手にいれた者の末路がそれだ。肉体のみを延命し、ダリアは魂魄と共に抜け落ちたのだ。
善意からダリアを分け与えた結果、薬は人間には毒だった。初めは、今回同様どういう事かと困惑したそうだ。勿論、魔女や魔法使いが疑われた。けれど、魔力の痕跡が見当たらない為、一体どうゆう事かとなる。暫くして、ダリアの存在が明らかになり、それが原因だと解明した。魔法を使わず、ただ妖精が花から作った薬。
ダリアを禁忌とすることに、当初妖精達は納得しなかった。そもそもの発端は、争い事だ。人間が勝手に起こして、自分達を巻き込んだ。それなのに、禁忌にするとはどうゆうことだと。当時の魔法庁も手を焼いたそうだ。根気よく説得を続け、今後二度と争い事に巻き込まない事を条件に、ダリアは全て廃棄処分。原材料となる花も全て根絶やしとなった。その時の記録を、ルナの母はメールで知らせてくれたのだ。
「ダリアは存在しない。だが——」
ダリアしかない。
書物に載った、ダリアを摂取した者の写真。その中で、虚な目は虚空を見つめていた。ただ、じっと。




