【4】
「ミサキっち、お邪魔ー。元気してた?」
そう言うと、彼女の右隣に座る。
「まね」
ややため息混じり。
「そいや、地元帰ってるんだっけ?」
言葉はなくただ頷く。
「——どしたん、なんかあったの?」
ルナはチョコレートの乗った皿を引き寄せる。それから、彼女の空になりかけたカップに紅茶を注ぐ。
「参考までに——意見聞いてもいいかな?」
ミサキは言うか迷う素ぶりをみせたものの、煮詰まりつつある状況をルナに話してみせた。
事は、ミサキの地元、ヒノアカ国で起きた。ヒノアカは東の小さな島国で、大きな海原に囲まれ孤立している。魔法使いは、大陸ほど多くはなく情報も少ない。
先月、とある事件が起きた。
被害者は外傷がない。ただただ虚であった。まるで、魂が抜かれたように言葉を話すことも、自ら食事をとることも、動くことも出来ず、虚空を見つめる。
そんな事が立て続けに続き、被害者は八名にも及んだ。魔法局からの依頼で、協力して解決に動いているが、これといって大きな手掛かりがないまま今日に至ると語った。
まず、病院での検査結果は特に異常は見られない。脳も正常で何かしらの薬や細菌の類ではないという。二人、三人と続き、これはとても普通ではないと魔法局に相談があった。もちろん魔力の関与を探ったけど、それも全くない。だが、明らかに異常なのだ。
被害者には目立った共通点はなく、被害にあった場所もバラバラ。
「手詰まりでさ、もうどうしていいかわかんなくって」
そう言いながら、チョコレートを口に放り込む。
「何も分からない状態だから、今は点滴で対応してもらっている。こんだけ痕跡がないってのも——怖いんだよね」
ミサキの言う通り。
魔力の痕跡がない。ただの人なら残らなくても納得するけど、状況的にそれは考えられない。すると今度は、なぜ残さないのか、残せないのかになってくる。いづれにしても、普通ではない事は明らか。
「うーん。確かに怪しいんだわ。虚か……ごめん。今すぐの返答は難しい。うちに戻って調べてみないとなんだわ。何かわかったら連絡する」
「——うん、ありがと。はぁーでもほんと、ここに来れて少しは羽を伸ばせるけど——帰るの嫌だなぁー」
胸の中に溜めてた物を吐き出して、少し気が楽になる。
「場合によっては、あたしもヒノアカに行くんだわ。そん時は宜しく」
「まじ? 来てくれるの?」
「ヒノアカ行った事なかったし。なんなら、ローズとルシアンも連れてくんだわ」
「——え? ルシアンって、あの?」
ミサキは驚きの言葉にルナを凝視する。
「そうだよ。今、うちで働いてもらってるから」
「うっそ、ほんとに? 何、結婚でもしたの?」
ミサキの言葉にルナは首を傾げる。
「なんで、そーなるん。ただの仕事仲間だって。ローズと一緒」
全く悪びれせずに言い放つ。
「まじか——」
あんなに分かりやすいのに、今一つ伝わってなさすぎて、ミサキはルシアンを不憫に思った。学生時から変わらずルナ一筋なのは良いんだけど、一向に一切の気持ちも分かってもらえず、同級生から仕事仲間にただ昇華しただけ。
「この前ランク昇格してるから、こき使うんだわ」
衝撃的事実。
ランク昇格しているのもだが、下僕として命令している様子が容易に想像できる事が。開いた口にチョコレートを放り込まれる。それを咀嚼しているうちに、漏れた話に火がついた。魔女達の格好の餌食となったルシアンが、何も知らずに今も尚、気落ちしている事は誰も知らない——。




