【2】
走る兎 笑う猫 回らぬ時計
「マッドハッターフィースト」
鏡の中。
真っ暗な闇に浮かぶ、一筋の光の道。細く長い道の先に向かって歩き出す。
向かう場所はただ一つ。
招待状を手に、魔女達は進んだ。
光の途切れた先で足を止める。ふっと底が抜け、落ちていく。長い暗闇を徐々に落下していくと、足底が地に到着の感触を得る。薄暗いただの空洞には焦茶色の扉が一つ。魔女は迷う事なくドアノブに手をかけ、一気に引く。すると、眩い光が目に差し込んだ。
薄い若草色の芝生が一面に広がり、中央には真っ白なレースが敷かれた長方形のテーブルに、イスが十脚。
テーブルの上には等間隔に花瓶が置かれ、色とりどりの花が生けられている。その横には白い陶器が並び、チョコレートやクッキーにスコーンが置かれ、甘い香りが漂う。
テーブルを囲うように、周囲には紅白の薔薇の木。そして、ピンク色のフラミンゴが優雅に散歩していた。
ここは、魔女達の秘密の花園。
胸踊り、テーブルへと足を進める。
「美味しそうなんだわ」
ルナはまじまじとお菓子を見つめる。
「お気に召しまして?」
声と共にルナの前に現れ、淡い栗毛色の髪を靡かせた。
「アンジェリカ、おひさ」
「久しぶり、ルナ。随分を気合い入ってるじゃない?」
紫とピンクの全身横縞ファッション。黒い厚底のショートブーツに、黒フリルのミニスカート。滅多にしないメイクまで。ツインテールにまでシュシュをつけ、抜けがない。
「まぁね。だって三年ぶりだし。はい、手土産」
ご機嫌で手渡す。
「ありがとう。後でみんなで頂きましょう」
微笑みを返す。
そんなやりとりをしているうちに、続々と魔女は集まる。皆、それぞれに気合に入った格好をしていた。
ルナにローズ。主催者のアンジェリカを含む合計十名の魔女達。
各々持参した手土産の中身は、どれも菓子であった。陶器の器に入れて並べると、テーブルの上は甘味でいっぱいになった。
それからイスに座り、用意されたポットからティーカップへ紅茶を注ぐと、茶葉の香りが鼻腔をつく。
準備は完了。
誰が号令するわけでもなく、彼女達が集まれば自然と話が盛り上がる。お菓子をつまみながら、紅茶を飲みながら。特にゴシップ話に花を咲かせながら——。
ルシアンは知らない。
これは、ただ単に女子会である事を。




