【5】
周りには、監視要員が集まった。
二人対三人。
剣を握り、見据える。
絶えず微笑を続ける双子は、剣を構える。高らかに鳴り響く開始の合図と共に、一人が素早く切り込んだように見えたが、瞬間。背後の壁面が大きな音共に崩れた。砕かれた石煙の先に見えたのは、地面に突っ伏した男の姿。
吹っ飛ばされた!
——ゴリラだから。ゴリラだから。ゴリラだからゴリラだゴリラゴリ…………
その言葉が脳内を支配する。
「よそ見かい?」
いつの間にか、目の前に人が立っていた。振り下ろされた剣を、咄嗟に剣で受ける。
鉄同士がぶつかる音が響く。
「っ——」
あーーっ重い‼︎。歯を食いしばる。
「うん。良い反応」
なんつー馬鹿力!
手も足も震える。おおよそ見た目からは想像出来ない力。ルナがそう異名をつける理由を理解する。
「心配しなくてもいい。彼なら医務室へ送られるからね」
ルシアンとは異なり涼しい顔を見せる。
「顔見知りだからって手心を加えたりしないよ」
耳元でそう囁くと、一度距離をとる。
解放されたルシアンは大きく息をする。手が痺れて、剣は随分と重い。急いで呼吸を整え、脳内に響くゴリラコールを頭を左右に振り払う。
耳には、響き合う剣撃の音。どこかで、もう一人が健闘しているのだ。だが、振り返る余裕はない。改めて、剣を受けて分かった。自分では、剣で勝つことは無理だ。相手は軍団長。ルナの言は正しかったと、嫌でもわからされる。
ルシアンは防御に徹した。何度と攻撃を受けても防いだ。
「——成程。そうだね、確かに。ルナちゃんも居るから当然か」
防御一点のその姿に、聞こえないほどの小さな声。
「では、少し本気を出そう」
そう言って加速する。どれ程耐えられるか——見たくなった。
別に意地悪をしているわけじゃない。ローズと一緒に住んでいるから。とか、そんな私情は挟まない。ただ純粋に、彼の魔法防御の力が如何程か。軍を預かる身として興味が湧いた。故に、打撃はさらに重く、早く。連続で。
息は荒く、額からは汗が床へリズムよく落ちる。足は震え、明らかに疲弊している。慣れない魔法の連続。それでも、その瞳は力強く前を見据える。
——良い瞳をしている。
ふっと笑う。
うん。いいよ、すごく良い。まだ時間はあるね、よし。
「僕はこれから、強力な一撃をあげる。正面からだよ。それを防いでみて。息を整えるのに一分あげる——頑張って」
試験管自ら攻撃の予告と激励に、周囲は騒つくと同時に、救護班を呼ぶ声が聞こえる。
つまりは、防ぎきれなかったら即治療の大怪我を負う事の意。
一番動揺しているのは、ルシアンだった。これ以上の攻撃? ——一気に血の気が引く。
思考が時間を奪う。
だめだ、落ち着け。落ち着くんだ——。
ふぅと息を吐く。
あと十秒。の声がかかる。
まずいまずい! もう、やるしかない。やるしかないんだ!
えっと——。もう一度深呼吸。
礎 遥か不来方 防止の砦
「グラーバウ」
ルシアンの防壁はフランソワの攻撃を正面で受け止める。厚い氷壁は、一撃を受けた瞬間粉々に粉砕するも、途切れず流れ出た氷に補強され、かろうじて防御の体をとっているが、押し負けているのは確か。足の力が徐々に抜け、後退りを余儀なくされる。
「——ぐぅ」
ここまできて、負けたくない——。強く思い、力を捻り出す。
耐えろ、耐えろ、耐えろー——と、己に言い聞かせた結果。
手も足も出せず、ルシアンを見守るモモコに変異が訪れた。体は光を纏い、溶けて形を成す。
「——進化か」
誰かがポツリと言った。
神々しく光を放ち、やがて消え失せる時。美しい桃色の毛並みの狐には、尾が一本増えていた。体躯も少し大きく成長している。狐は四本の尾を揺らし、尚も大人しく主を見つめる。
結局の所、ルシアンは押し負けしてしまい、仰向けで天を仰いでいる。
押し負けた。とはいえ、大きな怪我がないのは幸いの事。
それに、使い魔が進化したということは、主がその分成長した証。
「進化か——。まさか、試験中になるとはね。ほら、君も起き上がって見てみると良い」
手を差し出され、勢いで起き上がる。
「あ——」
「君の使い魔だろう? 立派な狐だね。美しい毛色をしている」
優しい眼差しで、こちらを見ているモモコには、確かに尻尾が増えていた。
「君の試験は終了した。行って声をかけてあげるといい」
言うと、フランソワはルシアンの肩を軽く叩き、去って行った。




