【4】
残された数少ない受験者は、筆記の試験会場へ戻る。
部屋へ入ると、教壇の後ろに大きく表示された受験番号。——筆記試験の合格者だった。ルシアンは数字を目で追う。
「あった……」
めでたく筆記試験も通過した。
また数名が振り落とされる。残った者はルシアン含め三人。わずかに残った受験者は、ここで昼食時間を過ごす。一時間という短い時間の中、持参した飲み物で喉を潤す。サンドイッチを頬張りながら、自分のライバル達に視線を移す。
一人は屈強な男性。ルシアンより少し年上に見えた。茶の短髪で、これから行う剣技はいかにも得意という風貌だった。
もう一人は、女性。年若、小柄で華奢。淡い金糸の髪を頭頂部で束ね、耳は人と比べやや長く先端が尖っている。それで、妖精種だと気づく。
残るべくして残ったんだと思った。
二人に比べ、自分はなんて冴えない。いかにも一般人。ため息が漏れる。
「卑下する心配はありません。もっとご自身を信じてあげてくださいませ」
隣から、モモコが口を出す。
心を読まれていたかのような言葉に、どキリとする。
「出来ますよ。ちゃんと」と、微笑む。
休憩時間終了時刻。
三人は呼ばれ、最後の試験会場へ向かう。複雑な建物を奥へと案内された先に、広い円形の広場が現れた。
中に入っていくと、中心部に立つ人が居た。その顔には見覚えがあり、ルシアンは一層緊張に顔を強張らせる。
「これより最後の試験を執り行う。この試験では、受験者は防御にのみ魔法を許可する。使い魔を使いたいだろうが、不許可だ。三十分の戦闘の後、結果を言い渡す。尚、試験官はお二方。合否は彼等に一任されている。では、検討を祈る」
言い終えると、受験者と試験官に刃のない鉄製の剣が渡される。
受け取ると、ずしりと重い。
「僭越ながら。試験官を務める、魔法軍所属右軍団長フランソワ・ウル・ランセルだ。宜しく」
「同じく、魔法軍所属左軍団長フランシス・ウル・ランセル。先程も説明があった通り、俺達と一手試合をしてもらう。俺達は魔法は使わないから、安心して」
この、柔らかい微笑みが今は怖い。
「それじゃ、五分後に開始としよう」
「準備運動はちゃんとするんだよ」
距離をとり、ルシアンは体を解す運動をする。
——いい? あの二人に剣技で勝とうなんて考えちゃ駄目なんだわ。初めて剣を握ったひよっこが、歴戦の軍団長に勝るわけがない。肝心なのは、攻撃を防いでダメージを負わない事。強化すべきは防御なんだわ。幸い、防御には魔法が使える。逆に言うと、魔法で防御しないといけないくらいの攻撃ってわけ。アンダスターン?
ルナの講義が脳裏に浮かぶ。
でも、剣技の試験なのに、それでいいのかと問いを投げる。
——脳みそ使いたまえ、ルシアン君。単純に剣を使える人材が欲しいだけなら、態々軍団の長なんか出なくても、ある程度腕の立つ人にやらせればいいんだわ。確かに、魔法軍に入るには剣技は必須。腕の立つ人材なら直ぐに役に立つだろう。でも、そんなの入ってからだっていくらでも修行すればいいんだわ。そもそもが、これは魔法のランク昇格試験って事を忘れちゃいけないんだわ。ルシアン君だって、ランク上がったからって、魔法軍に入りたいって事じゃないだろ? 表向きの言葉に飲まれて頭が硬いままじゃ、いつまでもランク昇格は無理なんだわ。
ルシアンは押し黙った。
——要するに、これは防御魔法の試験って事。己の身を守れなければなんとやら。ま、名実どうりに剣技で勝てれば文句はないんだろうけど。あのゴリラに勝つ自信があるならだけど。それに、習得しといて損はないんだわ。この前みたいに厄介な依頼がないとも限らないしー。強力な魔法攻撃には、紙みたいな学校レベルの防御じゃ太刀打ちできないんだわ。
自信は、ない。
即答だった。そりゃそう。ルナの言う通り。今まで剣なんて握った事ない。まして、剣で戦うなんて。それからは、防御魔法を必死で練習した。
——でも一応剣の練習はするよ。流石に、剣技なのに全く出来ないのも問題なんだわ。はい、スタンドアーップ!
疲弊した所で、容赦のない事を言い出されたのを思い出し、苦笑いを浮かべる。




