【3】
熱風が肌を掠める。
辺り一面瓦礫と火の海。炎は今もなお燃え盛り煙が充満する。咄嗟に腕で鼻を覆う。
足が竦むほどの大火事。けれど、立ち竦んでいる時間はない。
獣であっても、この瘴気の中人を探すのは困難だろう。まして、この試験に用意されているのは命を持たないもの。だが、こう火の手が早いと、もたついている間に命が消えてしまう方が——。ルシアンは思考する。
俺は火を消す。
だが、範囲が広い。時間もかけられない。それに、水圧を間違えれば瓦礫もろとも消し飛ばしかねない。
「モモコさん」
「はい」
「俺は火を消します。モモコさんは、人命を優先して欲しい。危険は承知してますが、引き受けてくれますか?」
「はい、勿論です。お任せください」
一切の迷いはなく。
「出来るだけ早く火を消します」
「私の事は心配なさらず。今は、火を消す事に専念なさってください。大丈夫——あなたなら、ちゃんと出来ますから」
そう言って、獣の姿になり駆けた。
「よし」
ルシアンは瞳を閉じて深呼吸する。
残り時間は八分。
雨のように水が降り注ぐ。
空より降り落ちる水は、まだ優しく。炎にただ飲み込まれ、蒸発してゆく。
まだだ。まだ、全然足りない。
徐々に水圧を上げていく。慎重に。
特訓した。それはもう沢山。感覚を頼りに、ルシアンは火を消していく。
空からの恵みの雨を浴びながら、獣は瓦礫の中を捜索する。当てずっぽうに探したところで、時間を無駄にするのは分かりきっていた。
ルシアンが集中している。初めてあった時と比べ、魔力のコントロールは格段に上がった。それは、使い魔であるモモコにも影響する。
集中。
感覚を研ぎ澄ます。耳、鼻、目、気配。
すると、視える。
異質なものが、どこにあるのか——。
モモコは、迷うことなく三つの命を救う。主の命のままに——。
九分と五十八秒。
なんとかギリギリの時間で、ルシアン達は試験を終えた。
「——やった」
煤だらけの顔が綻ぶ。
「はい、良く出来ました」
そういうモモコも、煤だらけ。
会場を出た所で、固く絞った濡れタオルを渡されると、熱った顔を拭く。
魔法実技試験終了後。
実技に失格した者は、有無を言わさずここで帰される。受験者は数十名居たが、残った者は片指で足りる程。半分以上が、魔法実技試験で振り落とされた。
帰路に着く項垂れた後ろ姿を見ると、自分が通った事が不思議でならない。
「モモコさんのお陰だな。一人だったら、無理だった」
使い魔を良しとする。実際、使い魔との連携が鍵だったと思った。初めから、二人で協力する。を、想定された内容だったと、今になればこそ思う。
「いいえ。例え二人でも手に負えないからこそ、このような結果に。あなたの努力あってこそ、私も成長できたのですよ」
モモコは煤の取れた顔で微笑む。その美しい桃色の髪には、未だ格闘の跡が残る。




