【1】
緊張な面持ちの男が一人。
「肩の力を抜いてください」
三歩の距離をとる声が背後から。
「大丈夫ですよ。沢山特訓したんですから」
「うぅ。胃が痛くなってきた」
背を曲げて、胃をさする。
魔法庁内、試験会場。
ここで一年に一度、ランク昇級試験が行われる。事前に申し込みを済ませた者は、受付を済ませると、ランク毎に異なった会場へ案内される。
試験内容は、筆記に魔法実技。ランクⅢからは、剣技が追加される。
試験を受ける理由としては、魔法庁への就職がある。そして、魔法庁にはルールから逸脱した者を取り締まる役割もあるがゆえ、捕まえるに足る実力が必要となる。
時には国からの要請に応じ、動く場合もある。その為、剣技が必須項目として追加された。
魔法庁には、主にそういった物騒な任務にあたる魔法軍が存在している。危険が伴うが、報酬もその分多い。憧れる者も多いが、軍へ入る道は細く険しい。
いつか魔法庁に。
そう、思っていた時期があった。今となっては、甘い考えだったんだと気づく。
恐らく、自分以外の人はそういう意気込みなのだろう。真剣な面持ちでひりつく空気感がそう思わせる。
自分は——。
受けてみなよ。勿体無いんだわ、それなりに実力あるんだからさっ。
そうルナに言われたから。
魔法局に入ってからは、自分の生活範囲外で魔法を使う事がなかった。
ブランク期間が長く、試験に向けての特訓は学校に居た頃よりもきつかった。短時間で知識を詰め込み、魔法の練習を行う。ルナやローズは、そりゃ手厳しかった。一切の容赦はなく——。それでも、仕事の合間を縫って協力してくれた。
別段、今の仕事であればランク昇格なんてなくても成り立つ。
でも、魔法使いとして人の役にたつ——。
彼女達の堂々とした背中を見て、受ける決心をした。何より、自分もそうなりたいと思ったから。
試験は筆記から始まる。
その間、違反防止として、各々使い魔は別室へと移動を余儀なくされる。無論、杖も預けなければならない。
さらには、魔法により監視された空間にて答案用紙は配られる。試験管は四隅に四人。厳格な視線でもって受験者は見張られる。完全に己の実力でもって突破しなければならない試験が、今始まる。




