【5】
「犯人は現場に戻る。ってやつなんだわ」
背後より声。
「どうしてここに居るのか。って、思ってる? そりゃ、あんたが言ったからなんだわ。悪には裁きを——って」
返事は返ってこない。
「おーい。聞こえてるー? ベルズ」
名前を呼ばれ、ようやく振り向くと、その腕には黄金のランプがあった。
「あんた一人か」
「一人じゃない。相棒も一緒さ」
肩に立つ小さな黒猫を見やる。
「いつからだ」
「最初から。あんたが、城に来る前からなんだわ」
男の顔が強張る。
「あんたは——魔法を使える。でなければ。あの霧の中を、呼ばれてもないのに、迷わずに来れる筈がない。あんたは魔力を辿って、城に着いた。初めからあたし達を利用するつもりで、あの森に入ったんだわ」
男は無言のままだ。
「だから、利用されてあげたんだわ。筋書きはこう。あんたは確かに、この遺跡で魔法のランプを見つけた。魔法が使えるんなら、そのランプに残る魔力で分かった筈。そこで、欲望に駆られたあんたは、その魔法のランプを、何がなんでも自分の物にしたくなった。だから、本物のランプを密かに隠し、偽物を用意して発見させる。鑑定後、本物のランプは仲間達が隠し持っている。と、嘘を流す。そうしてテントを襲わせた後、偽物のランプを持ち出し、それが本物であるかのように演出した。あたし達に護衛をさせ、追手を一網打尽。偽物のランプを手放し、一件落着。そ邪魔者が全て消えた所で、本物の魔法のランプを持ち帰る。その一歩手前が今。そう? まぁまぁいい線いってるでしょ」
推察を聞く男にさらに続ける。
「無登録の無免許。ベルズ、あんたの名前は魔法登録されていない。問い合わせたからね、確かなんだわ。どうして、魔力のある人間が、魔法登録必須で、魔法学校に通い、魔法を使うのに免許が必要か知っているかい? 自分の力を正しく理解し、その歴史を学び、倫理や人道を持って使う為なんだわ」
ルナの持つ杖は深紅のロッドへと姿を変える。
「——魔女一人が、魔神に勝てるとでも?」
「魔神か。本物だったら、負けるかもね」
ベルズはニヤリと笑い、勢いよくランプを擦る。
だが、何も起こらない。
「——そんな筈はない! これは本物だ!」
そう叫びながら、何度もランプを擦る。
「出てこい! 魔神!」
「学がない。ってのは、そういう事さ。魔神はとうの昔に、ランプから解放されてる。そのランプに残っているのは、ただの残滓に過ぎないんだわ」
ただの抜け殻。
ベルズはの手から、ランプは砂の上にずり落ちる。
「欲望は人を盲目にするんだわ」
男は俯く。
「来い。——マディオン」
地面が揺れる。
男の言葉に引かれるように、それは砂の中から現れた。
三メートルほどの巨体のトカゲ。鱗は赤く、ルナを睨みつける。
「……知ってるぜ。使い魔は、魔力に比例するってな。あんたのその、ちっこい猫。それがあんたの魔力だ」
「お、ムカチャッカファイヤー」
「お前を消せば——丸く治る!」
トカゲは、突然炎を吐いて襲って来る。
「ほーん。あたしに火力勝負を挑むなんて」 ルナはくすりと笑う。
「ここが砂漠で良かった」
呟く。
空中へ上がり、ロッドを下へ向ける。
舞い散れ灰塵
「ルージュダスト」
光のような一筋の炎は、大トカゲからわずかにずれた場所に落ちた。
下手くそが!
男が心の内で叫んだ瞬間。砂漠には大きな音と共に巨大な穴が現れた。
そして、ふわりと舞い上がってきた予熱で、大トカゲの鱗は焼け爛れ、その場に倒れた。
灰燼となる一撃。
わざと、ずらしたのだと気づく。
「こういう技って、普段は使えないんだわ。ぜーんぶ、燃やしちゃうから」
そう言いながら、地上に降り立つ。




