【3】
二人きりの部屋は、依然重い空気感。
指先すら動かせず、ルシアンは立ち尽くした。緊張するなと言う方が無理がある。目の前にいるのは、魔法庁のトップ。謂わば、魔法使いの頂点。
紺色の髪に目の色はルナと同じ金色。肌も年齢の割には若く、皺が——眉間にだけ寄っているのは、この状況からと想像がつく。
写真でしか目にしたことのない彼の姿は、自分の理想とする大人の姿。凛々しく、逞しい。
「ルシアン君。と、言ったね」
沈黙を破る。
「はい!」
「一つ。質問をしよう——ルナのあの服。どう思う?」
何を聞かれるのかと身構えたが、思ってもない質問だった。
「個性的だけど、俺は派手で良いと思います。自分には無い感性というか——自分に自信があって羨ましくもあるというか……」
雷撃が襲う。
ば、馬鹿な——。
蛍光ピンクの豹柄バルーンパンツ。さらにはターコイズブルーのクロコダイル柄パーカー。背中からは尾が生え、お腹にはなんともいえない鰐の絵。本当、なんともいえないポンコツ顔の!
あれを、個性的で良いだと——。
正気か?
い、いや。
きっと、親の前だから気を遣っているに違いない。あぁ、絶対にそうだ。そうでなければ——。
「ふっ。成程。ちなみに、あの格好のルナと外出は可能かね?」
審査は続く。
「え? あ、はい。買い物の付き合いとかなら、行ってます。荷物持ちですけど……」
ぐはっあ!
な、な、なんて強靭なメンタル!
くっ——
「高級デパートやテーマパークなどは?」
「……流石にまだ行った事はないです。その——機会があれば」
「あの姿でも、行けると?」
「はい」
な、なんて真っ直ぐな目!
君は本当に、本心からそう言っているのか? ルシアン君。隣で歩いても恥がないと‼︎ 娘の事を悪くは言いたくないが、正直。ファッションセンスだけは、直してあげられなくてね。ママとルナ対私。という構図が常。はは。困ったものだよ。どこに行くにも視線が痛くてね。ママもルナちゃんも、あんなに可愛いのに私服は破天荒。まぁ、慣れたし可愛さの方が勝るけれどもね。おっと脱線してしまうところだ。
しかし。
このままでは、彼の方が一枚上手になってしまう。父親として、負けられん‼︎
ミハイルが脳内で悶々と思考を巡らせている最中。静寂の中、ルシアンの脳内も大忙しだった。
黙っちゃった……。俺、失言した? したよねこれ。だって、さっきより皺すごいもん。
でも、嘘はつけないし……。あんな芸術的な服装を、堂々と着て出かけられるって、凄いと思うよ。確固たる自分があるって事だし。尊敬するし、羨ましい。俺は、いつも無難な格好しか出来ないし……。えーどうすれば正解だったんだー。ど、どうしよう。魔法庁のトップに睨まれたら、俺の魔法使い人生終わる……。せっかくこれからって思ってたのに……。
「ルシアン君。娘をもつ父として——やはり異性が共に暮らす事は容認出来ない。だが、私を納得させられたなら、定期報告を行うのを約束とし認めよう。そこで、一つ提案だ。私と勝負をしないか? この勝負で君が勝つことができたら、君を認める。やるかい?」 勝負——。
「それは……どんな勝負ですか?」
恐る恐る聞く。
「安心したまえ。魔法は一切使わない。それは——」




