【5】
月光に照らされた乱入者は、五人。空から地上に降り立つと、魔法の杖を構えた。
見知らぬ顔ぶれ。
「その花を置いて去りな」
「——もしもしポリスメン?」
「ノータイムで通報するな! ってか、ここは魔法庁の管轄外だっての!」
リーダーらしき女は吠える。
「そう。ここでは何が起きても自己責任」
背後の方角から使い魔らしき獣の気配。吠え方からして狼の類か。
「逃げるなら、見逃してあげる」
挟み撃ちとは、手慣れたやり方。
「ふむふむ。小汚い手口。悪いけど引く気はないんだわ。とう事とで、ルシアン君。漢を見せたまえ」
「——えっ? 俺?」
「仕事なんだからやりたまえ。ジョンが根性を見せたんだから、君も根性だしな!」
そう言って、ルナはルシアンの背中を勢いよく叩く。
反動で、一人前へと飛び出る。
「はは……えっと」
何をしていいかと思った矢先。モモコがルシアンの前に立つ。
「帰れブス」
は?
全員の時が止まった。
ルシアンは驚きの表情を浮かべる。
「——ちょっ、と——今なんて?」
リーダーらしき女は、口を開く。
「帰れブス。と申し上げました」
モモコはニコニコとした微笑みを浮かべている。
「ちょっ、え? 私に言った?」
「ええ。他に誰がいるのです? あぁ失礼致しました。ブスとブサイクの集団でしたわね。あまりの醜さについ口が滑ってしまいました。横取りだなんて。えぇ、えぇ。本当に醜いですわ」
終始笑顔で吐き出される毒に、後方に居る魔女二人は腹を抱えて大爆笑していた。
「ちょ、お腹痛い! 何なのあれ、最高すぎるんだわ」
侮辱された女は杖を強く握りしめる。
「——決めた。全員、血祭りよ」
「ははっ——しゃあない。やるよローズ。面白いもの見れたし、今日のあたしは超ご機嫌なんだわ!」
「そうね。フランネル、使い魔達の方は任せたわよ。一人で大丈夫?」
「ええ。問題ありません」
「そ。じゃお願いね」
「かしこまりました」
獣の姿に変化したフランネルは、その大きな体で俊敏に駆ける。
「クロたんは、ジョンと太陽の花を死守ね。任せた」
「はい。お任せください。ルナ様」
二人の魔女は、杖を片手にルシアンの隣に立つ。
「ルシアン君。いいね、君の使い魔。気に入ったんだわ」
「えっ」
肩を組みそっと小声で囁かれ、胸が跳ねる。「ほらほら、早く命令しなよ。ご主人様」
「——っちか——じゃなくて、命令って何を言えばいいかわかんないって」
「馬鹿たれ。こんないい使い魔使いこなせないなんて、勿体なさすぎるんだわ。元の姿で援護してくれ。くらいで十分なんだわ」
「わ、わかつた」
腕を離され、ルシアンは言われた通りに命令を下す。
「モ、モモコ——さん」
「はい」
微笑みを浮かべたまま振り向く。
「えっと——元の姿で、その援護とかお願いでき、ますでしょうか?」
命令。ってのが、どうも苦手。される側だった癖が抜けない。
下手にお伺いを立てる。
「えぇ、勿論。仰せのままに」
声を弾ませて承諾。
モモコは、桃色の毛並みを靡かせ、華麗に狐の姿へ変化する。
その美しくも大きな狐は、三本の尾を揺らし、研ぎ澄まされた爪を見せびらかし、乱入者へ唸り声を上げた。
それはもう、腰を抜かすレベルの恐怖。
威嚇されただけで、乱入者は後ずさる。
「——使い魔も連れていない弱者の集団にでも見えたのかい?」
「使い魔……はっ」
「あっちはもう遅いですわよ。ほら」
大きな純白の狼が姿を現し、花の横に座り、遠吠えをする。
「たった一匹で——」
「ごめんなさいね」
申し訳なさの全く感じられない謝罪をローズは返す。
「ほら、ルシアン。君も頑張りたまえ」
「でも、俺、こうゆうの初めてだし」
「魔法使いになりたかったんだろ? 上司への不満とか日頃の鬱憤とか。そういうの晴らす感じでやればいいのさ。とにかく。今ここでやらなきゃ、いつまで経っても何も出来ない新人のままなんだわ」
ルナに尻を叩かれ、ルシアンは杖を握り一歩踏み出す。
不満……悩み……。なりたかつた自分。
そうだ。
俺は——
浮かんでくる。
それは、魔法のように。
暖かに 鮮やかに 流れる
「ガルフストリーム」
青い滝が一気に頭上から溢れ出て、水圧で地面へと伏す。
「おー。やるじゃん」
伏して動けないままの彼らの上に、滝は容赦なく降り注ぐ。
「ちょっ、止まんなーい」
ルシアンは慌てふためく。
「どーしよー。どうしたらいいのー」
あれが不満からくるものなら、相当に溜め込んでたんだなと哀れみを向けるも、とめど無く流れる水をどうしようか考える。
こればかりは、本人の加減次第。
ローズと視線を合わせる。
すると、モモコがルシアンの元に歩み寄り、頭を擦り付ける。
「落ち着いて。深呼吸をしてみてください。あなたなら、ちゃんと出来ますから」
半身の言葉を受け取り、ルシアンは深く、深く息を吸い、ゆっくりと吐く。
すっと力が抜け、魔法は消えた。
「よ、よかった……」
すっかり意識をなくした乱入者達は、ルナとローズの手により、杖を没収され縄で縛られる事となる。




