【1】
あれやこれやと書類を提出し、晴れて使い魔を得たルシアンは、美しい女性へと姿を変えた、あの桃色の狐と共に、町の広場にある市場を彷徨いていた。
後を黙って歩く使い魔は、その長い髪を束ねて揺らす。
にこにこと微笑みながら、ただ黙って着いてゆく。
チラチラと後に視線を送るも、女性と歩く事に慣れていないルシアンは、緊張を隠せない。
落ち着くんだ——俺。
不自然に深呼吸をする。
「すぅ——はぁ」
「何やってるの? こんな所で」
「うぉあ」
「ちょっと、そんなに驚かないでよ」
ルシアンに声をかけたのは、ローズだった。
「あら。その子、昨日の。あらあらあら随分と別嬪さんじゃない。馬子にもなんとかね。良かったじゃない。それで、ルシアンとは仲良くやってる?」
ローズの問に、女性はにっこりと微笑んで頷く。
「そう。それで、名前は? もう教えて貰ったの?」
「え? あ、うん。モモコ」
「モモコ——。愛らしいわね。これで少しは箔が付くじゃない。学校卒業して以来だものね。ちゃんと仕事してるの? あなた」
「し、してるよ。一応、魔法局……の、事務方……」
「一番下っ端じゃない。書類の整理しかやらせて貰えないって噂の」
「そーだよ! 悪いかよ!」
「悪くはないわよ。安定してるから、生活には困らないし」
「それは——そうなんだけど……」
どこか悩みを抱えている様に見え、ローズはルシアンをカフェへと誘った。
「オリジナルブレンド一つ。あなた達は?」
「えっと、俺も、同じので。モモコ——さんは……」
「冷たいミルクを」
大人びた艶のある声を出す。
「本当に、あなたの半身か疑問なくらい。大人っぽいわね——っと、それじゃまずは、あんた、何時になったらルナに告白するわけ?」
「な——」
「お待たせしました。コーヒーお二つとミルクです」
注文していたコーヒーとミルクがテーブルに置かれると、ローズはそっとカップを持ち上げ、口をつける。
「呆れた……。言っとくけど、あんたがルナを好きなのなんて、皆とっくに気づいてたわよ。気づいてないのはルナくらいね。あの子も大概にぶちんだからね。この町に来たのだって、そーゆう事なんでしょ」
図星すぎて、ルシアンは顔を真っ赤にする。
「そーゆー所よ。もう。それで、せっかくルナに会いにきたんでしょ。帰る前に寄って行きなさいよ。家に」
もじもじしながら、コーヒーに手をつけ、勢いよく飲む。
「あつ——」
そりゃそうよ。淹れたてなんだから。と、呆れ顔のローズ。
「……その。なんて言うか……俺…………」
「勿体ぶらないで話しなさいよ」
また一口コーヒーを飲み、意を決する。
「——俺、今の仕事辞めようかなって、思ってて……。魔法学校卒業してから、魔法局に合格して就職して、ゆくゆくは魔法庁にって、思ってたけど——そんな甘くなくてさ。魔法使いとして、皆の役に立ちたいって思って入ったのに、毎日毎日魔法と関係ない仕事ばかりで……このまま終わっちゃうのかなって思ったら、なんか学校に居た頃が懐かしくなっなって皆どうしてるかなって思って調べたら、ここに来てた——サーカス見に行ったのは、本当に偶然。二人とも、ちゃんと魔女として立派にやってるなって、思ったらなんか……」
ため息の後、俯く。
「そんなに嫌なら辞めちゃえば良いのよ。魔法庁だけが、人の役に立つ仕事じゃない。今は使い魔ちゃんだって居るんだし。まぁ、ゆっくり考えたら良いわ。視野を広げるのは大事よ」
「あ……うん」
「ねえ。そういえば、さっき市場に居たでしょう? お買い物の途中だったんじゃない?」
「え? あ、それは」
再び頬を赤らめる。
「——それじゃ、飲み終わったら、わたくしの買い物に付き合ってくれないかしら。荷物を持ってくれると、助かるわ」




