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6話:功名心

登場人物紹介

コダーマ

月の都の名家の長女 砲兵隊の指揮官 少し小柄で細面の美人。サーハとは義姉妹


サーハ

月の都の名家の三女 偵察隊の隊長 小柄で丸顔の美人。コダーマとは義姉妹

演習でのイヂーチの敗北は、他のバニー兵たちに奇妙な焦燥を与えていた。


「閣下に認められたい」

「自分たちも『白襷』に並びたい」


その筆頭が、偵察部隊のサーハと砲兵隊のコダーマだった。


「閣下は慎重すぎるわ。今なら敵の補給路を断てるはずよ!」


彼女たちは乃木の待機命令を無視し、部下二十名を率いて月の裏側の暗礁地帯へと強行偵察に飛び出した。


しかし、そこは知能を高めたウサギ怪人たちの罠。ニンジン型センサーに捉えられた彼女たちは、三倍の敵に包囲され、通信も遮断されてしまった。


「馬鹿者が……!」


報告を受けたイヂーチは、乃木に報告する間もなく、手近にいた白襷決死隊の手勢十名を連れて救援に飛び出した。


現場に到着したイヂーチが見たのは、岩陰で震え、エネルギー切れの光線銃を抱えて泣きじゃくるサーハたちの無惨な姿だった。


「助けに来たわ! ……でも、これじゃ我々も全滅ね」


敵のウサギ怪人たちは、振動する人参型の槍を振り上げ、包囲網を刻一刻と狭めてくる。


「イヂーチさん、ごめんなさい……私たち、閣下を驚かせたくて……」


「謝るのは後よ! 閣下なら、この絶望的な状況でどうするか考えなさい!」


四方を敵に囲まれ、頭上からも襲撃が迫る。絶体絶命の瞬間、イヂーチの脳裏に、演習で乃木が見せた「あの目」が蘇った。


(「戦場全体の『呼吸』を読め!」)


イヂーチは、敵の動きに一定の「波」があることに気づく。ウサギ怪人たちは強靭な脚力を持つが、着地の瞬間だけは、その巨体を支えるために必ず「静止」する。


イヂーチが部下に叫ぶ


「地面を狙いなさい、敵じゃない!」


「えっ、地面を!?」


「いいから! 銃撃をレゴリス(月砂)に叩き込むのよ!」


イヂーチの号令一下、白襷隊が地面を射撃する。

爆発によって、月面の細かい砂が巨大な煙幕となって立ち込める。低重力下では、一度舞った砂はなかなか沈まない。


「視界が……! 敵が見えないわ!」と叫ぶサーハ。


「目で見ちゃダメ! 耳を、閣下に叱られたその『兎耳』を使いなさい! 砂の動き、空気の震えを感じるのよ!」


砂塵の中、ウサギ怪人たちが苛立ち、闇雲に武器を振り回す。


イヂーチたちは、乃木から叩き込まれた呼吸法を使い、心拍数を極限まで下げた。


砂の壁を抜けて襲いかかる敵の豪槍。それを、イヂーチは目をつむったまま、流れるような動作で受け流し、相手の喉笛に銃剣を刺し込んだ。


「これだ……これが閣下の言っていた『魂の目』!」


他の部下たちも、イヂーチの覚醒に呼応した。サーハは無重力柔道で敵を空中に放り投げ、コダーマが撃ち落とす。


ただのバニーガールだった彼女たちが、戦場という極限状態の中で、真の「武人」へと変貌していく。


包囲を食い破り、命からがら帰還した彼女たちを待っていたのは、陣地の入り口で双眼鏡を置いた乃木の姿だった。


「……遅かったな」


乃木は、ボロボロになったイヂーチたちの前に歩み寄った。サハたちは処罰を覚悟して震えたが、乃木はその泥だらけの頬を、汚れた軍手で一度だけ撫でた。


「イヂーチ。部下を救い、よく『工夫』して戦った。その閃き、本官も学ぶべきものがある。」


「閣下……」


「サーハ、コダーマ。貴公らの無謀は万死に値する。……だが、その命、死に場所を間違えるなと言ったはずだ。今夜はメシを三杯食え。筋肉にせねば、明日の教練に耐えられんぞ」


乃木はそれだけ言うと、背を向けて陣地へと戻っていった。

その後ろ姿は、いつにも増して小さく、そして誇らしげに見えた。


イヂーチは、自分の手がまだ武者震いで震えているのを見つめた。


「……閣下。私たち、少しは近づけましたか?」


月の風(実際には空気の振動)が、誇らしげに彼女たちの長い耳を揺らしていた。

前書きでコダーマとサーハは義姉妹と書いたけど。殆どのバニーちゃん達は「歴代かぐや姫」の子なので種違いの義姉妹なのである。

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