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3話:死を恐れぬバニー、月面突撃を敢行せよ!

月の都「ムーン・パレス」の外郭は、いまや地獄の様相を呈していた。地平線を埋め尽くすのは、知能を狂気へと変えた反乱ウサギ軍の黒い波。その中心には、巨大なニンジン型主砲を備えた『月面重戦車・ロジャー・バニー』が鎮座していた。


「……旅順(あの時)とは立場が逆だな」


司令部でモニターを見つめる乃木の呟きは、苦渋に満ちていた。かつて旅順で攻める側として味わった絶望。

堅固な陣地と機関銃の前に斃れていった兵士たちの光景。それを今度は、守る側として「再現」せねばならない。


「全軍に告ぐ。これより構築するのは、ただの壁ではない。敵の骨を砕き、戦意を断つ死の迷宮『月面・永久要塞陣地』である!」



乃木の指揮により、都の周囲には瞬く間に深い塹壕が掘り巡らされた。


高電圧を帯びた極細のワイヤーが、月の重力に逆らって空間を網の目のように覆う。

月の科学と乃木の狙撃理論が融合した、超高精度の迎撃システムの無人光線砲台を備えた堡塁が敵を睨む。


「十分に引き付けろ! 敵の赤い眼に自分の姿が映るまで引き付けろ!」


乃木の怒号が通信機越しに飛ぶ。


殺到するウサギクリーチャー群が塹壕に足を踏み入れた瞬間、青白い電流が弾け、バニー兵たちの光線銃が一斉に火を吹いた。次々と月面に沈むウサギたち。だが、敵もさるもの。巨大な月面戦車が、同胞の屍を乗り越え、物理的な質量で有刺鉄線を押し潰しながら陣地突破を図る。


「防衛線が突破される……! 都が危ないわ!」


かぐや姫が悲鳴を上げる。



その時、土煙の中から、真っ白な布を肩から斜めに掛けた一団が飛び出した。


「全軍、私に続け! 閣下の教え、今こそ示す時です!」


先頭に立つのは、かぐや姫の元侍女、イヂーチ。第一話で光線銃を必死に撃っていたあの娘だ。彼女が率いるのは、乃木式教育を耐え抜いた精鋭『月面バニー白襷決死隊』


「なっ……生身で戦車に挑むというのか!?」

周囲が息を呑む中、決死隊は月面の低重力を利用し、弾丸のような速度で三次元的な跳躍を繰り返す。


イヂーチは戦車の砲塔の死角へ一気に飛び込むと、戦車の装甲板の継ぎ目に高エネルギーの「粘着餅爆弾」を叩き込んだ。


宇宙そらへお帰りなさいッ!」


大爆発とともに、難攻不落と思われた月面戦車がひっくり返り、機能を停止する。


「今だ! 白兵戦に持ち込め! 」


乃木の号令一下、残りのバニー兵たちが塹壕から躍り出た。一糸乱れぬとは言えないが勇敢な銃剣突撃で、混乱するウサギ怪人たちを次々と刺突、撃滅していく。



数時間の激闘の末、反乱軍は無数の残骸を残して撤退していった。


月の都は守られた。バニー兵たちは勝利の歓喜に沸き、お互いの無事を確認し合う。


イヂーチは、煤で汚れた白い襷を整え、乃木の元へ駆け寄った。


「閣下! 敵を撃退いたしました!」


「うむ……よくやった。イヂーチ、貴公の指揮、実に見事であったぞ!貴公を月の都防衛軍副官に任命する!」


乃木が彼女の肩にそっと手を置くと、イヂーチは顔を赤らめ、長い耳をパタパタと震わせた。その様子を、かぐや姫が少し複雑そうな、それでいて確信に満ちた表情で見つめている。


「守り抜きましたね、大将。ですが……」


かぐや姫が指差す先、暗いクレーターの向こう側では、未だ無数の赤い眼光がこちらを睨んでいた。


「ウサギたちは、さらに凶悪な『バイオ怪獣』を培養しているとの情報もあります。それに……」


彼女は乃木の耳元で、甘く、切実な声で囁いた。


「戦いだけでは、国は守れません。そろそろ、我が民の『血』を繋ぐお話も……始めなくては」


乃木は、勝利の余韻も束の間、戦車よりも恐ろしい「女子の攻勢」に、再び軍帽を深く被り直すのであった。

登場人物・兵器紹介

イヂーチ

第一話で健気に光線銃を撃っていたバニーちゃん

かぐや姫の筆頭侍女 短髪で細身ながら気骨のある美人



月面重戦車・ロジャー・バニー

ウサギ怪人達の駆る重戦車

ニンジン型の主砲から放たれる実体弾が電磁防護壁も城塞を突き砕く。大きさは旧ドイツ軍のマウス超重戦車くらい。


粘着餅爆弾

地球の餅にそっくりな高エネルギー触媒を兵器に転用した物。温めると粘着性を増す性質がある。

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