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2話:乃木式教育!月面バニー軍事訓練!

月の都「ムーン・パレス」に到着した乃木を待っていたのは、煌びやかな高層ビル群と、それに見合わぬほど弛緩した守備隊の姿だった。


「……これが軍隊か? お花見の宴会と見紛うたぞ」


目の前には、パステルカラーの戦闘服(という名のレオタード)を纏い、音楽を聴きながら体をくねらせたり、光線銃を鏡代わりに化粧を直したりするバニー兵たちが溢れていた。


「閣下、彼女たちは都の良家の子女でして……戦いなど、科学の自動防衛システムがやるものだと思い込んでいるのです」とかぐや姫が申し訳なさそうに添える。


乃木の堪忍袋の緒が、静かに、そして力強く引きちぎられた。


「総員、集合ッ!!」


月面に轟く、雷鳴のような一喝。

バニーたちが驚いて耳をピンと立てる中、乃木は広場に彼女たちを並ばせた。


「貴公ら! そのような破廉恥な格好で戦場に出るとは何事か! 敵の弾丸よりも先に、羞恥心で死ぬつもりか! 第一ボタンから締め直せッ!」


「……閣下、あの、私たちの服にはボタンという概念がなくて……」


一人のバニー兵が恐る恐る挙手する。


「黙れッ! 概念がないなら、心にボタンを作れ! 精神の弛みは服装の乱れに現れる! 全員、まずはそのチャラついた耳の飾り(通信機兼アンテナ)を真っ直ぐに直せ!」


地獄の教練、通称「乃木式教育」の幕開けであった。


月の都の広場、レゴリス(月砂)が舞い上がる特設道場。乃木は軍服の袖を捲り上げ、軟弱な科学にどっぷりと浸かったバニー兵たちを睨みつけた。


「貴公ら、光線銃の電池が切れたら腹を切るのか? 否ッ! 己の五体こそが、宇宙そらが与えし不滅の兵装であると知れ!」


乃木が提唱した「月面流・軍隊格闘術」は、地球の武術を低重力環境に最適化させた、恐るべき殺人術であった。


月面剣道

「剣は腕で振るのではない。月の引力を味方につけ、全身を弾丸として放つのだ!」


乃木は訓練用の木刀――月の鉱石を練り込んだ発光する重い棒――を上段に構えた。


バニー兵が呆気にとられる中、乃木はわずかに膝を沈める。次の瞬間、爆音とともに地を蹴った彼の体は、高度十メートルまで一気に跳躍した。


「キエーィッ!」

頂点で翻る銀髪。漆黒の宇宙を背景に、乃木は重力加速度を乗せた垂直落下の一撃を放つ。その衝撃波だけで、仮想敵のダミー人形は粉砕された。


「空中で姿勢を制御し、落下のエネルギーをすべて切っ先に集中させよ。これぞ、月面における『一刀両断』の極意なり!」


無重力柔道

次に乃木は、自分より二倍はあろうかという巨体のウサギ型機械人形を相手に選んだ。


「敵が突進してきたら、力で抗うは愚策。その勢いを月に返してやるのだ」


巨体が咆哮とともに迫った瞬間、乃木はスッと半身を引く。相手の腕を掴むやいなや、低重力を利用した最小限の回転で、自身の体を軸にした「円」を描いた。


「ぬんっ!」


気合とともに放たれた巨体は、月面のなだらかな曲線をなぞるように虚空を舞い、百メートル先のクレーターまで一気に投げ飛ばされた。


「投げるのではない、宇宙そらにお帰り願うのだ。重力が軽いということは、投げの軌道が『永遠』に続くということ。これぞ合気の真髄である」


真空空手

最後に、乃木はバニー兵たちを正座させ、静かに息を吐かせた。


「月の空気は薄い。だが、それを嘆くのは凡夫。武士もののふは、薄き空気を練り上げ、肺を鋼のふいごへと変える」


肺胞の隅々まで残った酸素を圧縮し、血液の循環を極限まで高める。乃木の全身が、冬の月のような青白いオーラに包まれた。


「せいッ!」


放たれた拳は、空気を伝わる衝撃波を生み出し、三メートル先の厚さ十センチの強化防壁を粉砕した。


「……見たか。科学の盾など、練り上げた魂の拳の前には紙縒かみよりも同然。貴公らのその『兎耳アンテナ』は、敵の動きを察知するためだけにあるのではない。宇宙の気を捉え、この拳に収束させるためにあるのだ!」


泥にまみれ、息を切らしながらも、バニー兵たちの瞳にはかつてない光が宿っていた。


「閣下……凄すぎる。私たち、ただのお飾りのお人形じゃなかったんだ……」


一人のバニー兵が、折れた木刀を握りしめ、自分たちの「力」に震えていた。


乃木はそれを見て、心の中でわずかに頷く。


「(旅順の若者たちも、皆このような目をしていた。……今度こそ、誰も死なせはせん)」


その厳格な背中に、かぐや姫は己の血脈を繋ぐべき「最強の武人」の姿を、確信を持って見出すのであった。


当初は「古臭いおじいちゃんが来た」「説教が長い」と陰口を叩いていたバニー兵たち。だが、自分たちを「女子」として甘やかすのではなく、一人の「兵士」として対等に厳しく接する乃木の姿に、彼女たちの胸の奥で未知の感情が芽生える。


「ねえ……閣下のあの、厳格な横顔。地球の男の人にはない『厚み』があるわよね……」


「さっき、型を直してもらう時に手が触れたんだけど、凄く温かくて……」


休憩時間、乃木が水筒の水をストイックに飲んでいると、バニーたちが「閣下! 汗をお拭きします!」「これ、月の特産の餅です!」と群がってくる。


「……うむ、貴公らもよく励んでいる。だが、茶を出す前に銃の整備を終えよ」


乃木は一切の誘惑に気づかない。彼の頭にあるのは、ただ一つ。


「この娘たちを、一人も死なせずに故郷(都)へ帰す」という、かつて旅順で果たせなかった悲願の成就のみであった。



その頃、都を包囲する反乱軍の「ムキムキウサギ戦車師団」が、じわじわと進軍を開始していた。

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