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1話:明治の漢、月面に転生す

登場人物


乃木希典

江戸末期〜明治を生きた、帝国陸軍大将


かぐや姫

あの有名な、かぐや姫の末裔で98代目 絶世の美女


バニーちゃん達

かぐや姫の侍女 月の都の民 全員とても美人


ウサギ怪人

二足歩行の体長2m ウサギに似た化け物 武器を使い、言葉も解する。




 1912年9月13日。明治天皇の霊柩が宮城を出る砲声が響くと同時に、乃木希典は自らの腹に刃を立てた。愛妻・静子の隣で意識が遠のく中、彼は確かに聞いた。数多の部下を死なせた旅順の、あの凍てつく風の音を。


 だが、次にまぶたを叩いたのは、刺すような「蒼い光」だった。


「……此処は、靖国ではなさそうだな」


 起き上がった乃木の体は、驚くほど軽い。喉を焼くような乾燥した薄い空気。まるで富士山の山頂にいるかのような息苦しさ。そして身を裂くような極寒。見上げる空は漆黒だが、そこには見たこともないほど巨大で美しい「青い星」が居座っていた。


 老将は、己の正装の乱れを正し、傍らに落ちていた愛刀を拾い上げる。腹の傷跡は、なぜか赤黒い光の筋によって塞がっていた。


静寂を破ったのは、女の悲鳴だった。


「助けて! 誰か、誰かおらぬのか!」


 乃木は反射的に駆け出した。驚くべきことに、軽く地を蹴っただけで、彼の体は十数メートルも跳躍した。


「なんと歩きにくい事か、あの世とはこれほどに気を使わないといけないとはーーしかし、これは、なかなかどうして面白きものよ」


 重力の枷から解き放たれた老軀は、全盛期をも凌駕する瞬発力を取り戻していた。


岩影に飛び込むと、そこには異様な光景があった。


 薄い布地に、頭には長いウサギの耳をつけた、露わな肌も眩しい二人の乙女。彼女らを追い詰めているのは、身の丈二メートルを越える、筋骨隆々とした「人型ウサギ」の化け物だった。


 化け物は、先端に不気味な機械装置が絡みついた「人参型の槍」を振り上げ、咆哮をあげる。


「狼藉者ッ!!」


乃木の怒声が月面のに轟いた。


 ウサギ型の怪人が、鈍重な動きで振り返る。その赤い目が乃木を捉えた瞬間、銀光が走った。


 乃木の一刀流、地球の1/6の重力を味方につけたその跳躍から繰り出される一撃は、怪人の脳天から股下までを、抵抗もなく両断した。


怪人の両断された切り口から体液が泡立って噴き出す。


「なんと面妖な、さては物怪の類か?」


 戸惑う乃木を余所に、次々と岩陰から現れるウサギ怪人の群れ。十体、二十体。


「危ない!」


 バニー姿の少女が、腰のホルスターから「拳銃」のような物を抜き放ち、火花を散らす。だが、怪人の硬質の皮膚に弾かれる。


乃木は不敵に笑った。


「案ずるな。この乃木は、一度死んでおる身だ。貴公ら、下がっておれ!」


「ノギ?キコウ?え?なに?」と戸惑う兎耳の少女


 彼は鞘を捨て、右手の軍刀を正眼に構えた。するとどうだ。彼の「殉死の覚悟」に呼応するかのように、白銀の刀身が烈火のごとき橙色の光を帯び始めた。


「これは?」


 軍刀が軽い、元々からして特別に仕立てた拵えであるからことしろにピタリと決まる名刀ではあったが、これは別物、まるでかいなの延長のような心地だったのだ。


 数分の後。月面のクレーターは、光り輝く刀で斬り伏せられた怪人たちの亡骸で埋め尽くされていた。

乃木は乱れた息を整えることもせず、静かに刀を振って光の残滓を払った。


「お怪我は、ございませんか……? 『日の本のお侍』様」


 震える声に顔を上げると、高台の岩の上に、一人の女性が立っていた。


 バニー姿の少女たちとは明らかに違う、神秘的な光沢を放つ十二単を纏った美女。その頭部には、誇りや気品を表すように長い白兎の耳。


「私は九十八代目かぐや姫。この月の王国『ムーン・パレス』の正統なる継承者です」


 乃木は直立不動の姿勢をとり、軍帽を胸に当てて深く一礼した。


「大日本帝国陸軍大将、乃木希典。……此度は不作法、失礼仕った。して、姫君。ここは月と仰られたが、この老体にいささかの説明を願います」



 乃木が斬り伏せたウサギ型怪人――それは、かつて月の民と平和に「餅(エネルギー触媒)」を搗き、共生していた原生ツキウサギの成れの果てであった。


「我ら月の民は、より良き労働力を求めて彼らに遺伝子改良を施しました。ですが、知能を持ちすぎた彼らは、非力な我らに対して反乱を起こしたのです……」


 九十八代目かぐや姫は、沈痛な面持ちで語る。

反乱軍となったウサギたちは、強靭な肉体と独自に発展させた「ニンジン型兵器」を手に、月の都を包囲。

かつて優雅だった月の都は、今や絶滅の危機に瀕していた。


乃木は一つ、大きな疑問を口にした。


「……失礼ながら姫君。先ほどから周囲に女子おなごしか見当たらぬが、この国の男子はどうされた?」

その問いに、かぐや姫と侍女たちは顔を伏せた。


「……月の民には、数百年前から男子が生まれないのです。その最後の男子さえ…ゆえに、代々の『かぐや姫』は、定期的に地球へ降り立ち、優れた男子から子種を授かることで血を繋いできました。かつて地球の帝や貴公子たちを翻弄したのも、すべては種を存続させるための『選別の儀』だったのです」


 乃木は絶句した。日本最古の物語の裏に、そのような生物学的使命があったとは。



「ですが、私は嫌だった……! 見も知らぬ地球の男としとねを共にするなど! だから私は儀式を拒み、この城を抜け出しました。そこを、あの反乱軍に……」


 涙を浮かべるかぐや姫。科学を極め、便利さを追求した月の民は、自らの手で戦う術を失っていた。唯一、地球の重力下で魂を練り上げ、死の淵を経験した「純潔の武人」である乃木だけが、この閉塞した状況を切り裂く希望だった。


「閣下、お力をお貸しください。科学に頼りすぎた我々は、あまりにも非力。あなたのその『魂の強さ』が必要なのです」


乃木は、天に浮かぶ青い地球を見つめた。


 明治大帝の後を追って死んだはずの自分が、異星の地で、女子たちの血脈と国を守るために戦う。それは武士として奇妙な運命であったが、同時に「守るべき主」を得た喜びが彼の胸に再燃した。


「……事情は理解した。姫君、顔を上げられよ。この乃木、女子の涙を等閑なおざりにするほど、朦朧はしておらん」


乃木は軍帽を深く被り直し、カチリと踵を鳴らした。


「月の民の血統問題については……追々考えるとして、まずはあの野卑なウサギどもに、『規律』というものを教えてやらねばならん。姫君、案内を。二〇三高地!いや、月の主権奪還を開始する!」

お察しの通り、『火星の男シリーズ』のオマージュ『火星の土方歳三』のオマージュです。

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