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11話:月面二〇三高地を攻略せよ

坑道の出口が弾け飛ぶと同時に、乃木希典は敵要塞の中へ躍り出た。


「突撃ッ! 続けッ!!」


白襷を掛けた精鋭バニー兵たちが、怒涛の勢いで要塞内部へ流れ込む。そこは、機械の唸りと培養液の腐臭が混ざり合う、異形の神殿であった。


「シンニュウ……シャ……コロセ……ッ!」

待ち構えていた敵の警備兵たちが、唸り声を上げて立ち塞がる。


月の科学を捨て、野獣の膂力を得たウサギ怪人たちとの、狭い通路での肉弾戦。銃を撃つ暇もない。バニーたちは、乃木から教わった銃剣術で、獣たちの喉元を突き刺していく。


「閣下、前方に強敵ですッ!」


イヂーチの叫ぶ先、通路の結節点に、一際巨大なウサギ怪人が立っていた。


その皮膚は、幾多の戦闘を経て変質したのか、鈍い鉄のような光沢を放っている。手には、高周波で震える二本の「ニンジン型棍棒」


「オマエタチ……ゴミウサギ……。ココ……トオサナイ……ッ!」


片言の言葉を操るその隊長格は、イヂーチの放った光線銃の熱線を、その硬質な胸板で弾き返した。


「閣下! ここは私が食い止めます! 閣下は一刻も早く、敵の首魁をッ!」


イヂーチが銃剣を構え、死を覚悟した鋭い踏み込みを見せる。棍棒と銃剣が激突し、火花が散る。


「……頼む。死ぬなよ、イヂーチ!」


乃木は、背後の弟子に一瞥もくれず、最深部へと疾走した。



要塞の最深部。そこには、巨大なガラス管の中で脈動する、山のようなバイオ怪獣が鎮座していた。そのコンソールの前に、一人の男が立っていた。

長い兎耳こそあるが、その身に纏っているのは軍装ではなく、白く汚れた研究衣。


「……来たか、地球の人よ」


男は、氷のように冷たい瞳で乃木を射抜いた。


「私の名はステーセル。かつてこの国を愛し、科学で救おうとした男だ。だが、この国は……我ら労働者を、科学者すらも使い潰した!」


「ステーセル、と言ったか。貴公の無念、理解できぬではない。だが……」


乃木は、軍帽の庇を指でなぞった。


「義のために、無辜の娘たちを、我が子同然の彼女たちを手に掛けるというのなら、本官は貴公を断じて許さぬ」


「対話は無用だ、乃木大将殿。この怪獣が目覚めれば、月の民は死に絶える。……」


ステーセルは、紫色の液体が満たされた巨大な注射器を、自らの首筋に迷いなく突き立てた。

「グ、ガ……アアアアアッ!!」

骨が軋み、筋肉が爆発的に膨れ上がる。彼の体躯はみるみるうちに膨張し、毛皮は鋼の針のように逆立った。


かつての科学者の面影は消え、そこには身の丈四メートルを超える、圧倒的な威圧感を放つ「大ウサギ怪人」が君臨していた。


その巨躯から放たれる風圧で、乃木の軍帽が吹き飛ばされる。

乃木は、月の科学が産み落としたその怪物を、静かに見上げた。


「……なるほど。言葉では通じぬか」


乃木は、光線銃を無造作に床へ捨てた。

科学の武器など、今の彼には不要であった。

彼はゆっくりと、腰の『軍刀』を引き抜く。


「貴公の義は、その身と共に本官が斬り伏せてやろう。……大日本帝国陸軍大将、乃木希典。推して参るッ!!」


乃木は軍刀を正眼に構えた。

静寂の中、橙色の炎が刀身を舐めるように燃え上がり、老将の影が要塞の壁に巨大な鬼神となって映し出された。

登場人物紹介

ステーセル

月の民の最後の男子。かつて月の都の科学者で、原生ウサギ達の品種改良に携わっていたが…

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