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10話:坑道作戦

「……運べッ! この一担ぎが、勝利へのきざはしとなるッ!!」


月面の地下、酸素の薄い狭隘な坑道に、乃木の野太い声が響く。


そこには、大将の威厳を示す肩章も、汚れなき軍服もなかった。あるのは、純白の褌一丁に、汗と銀の砂で汚れた、鋼のような老軀だけだ。


乃木は、天秤棒の両端に月砂レゴリスを積んだ重い袋を担ぎ、黙々と往復する。


バニー兵たちは、その姿に言葉を失った。月の科学がもたらした「効率」とは真逆の、あまりに原始的で、な「労働」


「……閣下が、あんなに……」


「見惚れている暇があるかッ! 手を動かせ! 貴公らの爪は、土を掘るためにあるのではないのかッ!!」


乃木の叱咤に、バニー兵達も指先から血を流しながらも必死に岩盤を削り続ける。かつての堕落した「月の女子」はそこにはいない。今、ここにいるのは、大地を穿つツキノウサギの軍団であった。



地上では、コダーマ率いる「月面砲兵隊」が、必死の支援射撃を続けていた。


「撃てッ! 一秒でも長く、敵の目をコチラに釘付けにするのよッ!!」


だが、無情にも最後の一発が放電と共に放たれ、砲身が沈黙した。


「……弾薬、枯渇。エネルギー・セル、沈黙しました……!」


砲兵たちの絶望。射撃が止まれば、敵のセンサーは即座に地下の微かな振動を捉えるだろう。そうなれば、坑道の中の乃木たちは、地下で生き埋めにされる。

その時、通信機から裂けるような声が響いた。


「……コダーマ、あとは任せて。私たちが、敵の『目』を引きつけるわ」



「大隊ッ! 前へッ!!」

サーハが、塹壕から身を翻し飛び出した。


彼女が指揮する歩兵部隊は、あえて敵の正面、電磁砲の射線へと踊り出た。


「こっちよ、化け物ども! 相手は私たちがしてあげるわッ!!」


陽動。それは、死を前提とした最も残酷な戦術。

要塞の防壁から放たれる無数の光弾が、バニーたちの柔らかな肢体を容赦なく貫く。


「う、あああっ……!」


一人、また一人と、砂の上に倒れ伏す。


サーハの肩に光線が走り、彼女の愛らしい耳の一片が焦げ落ちた。それでも彼女は止まらない。


「……閣下。見ていて……。私たち、もうお飾りの『お人形』じゃないわ……!」


サーハは胸に抱いた高出力の餅爆弾を起動させ、敵の第一防壁へと自爆突撃を仕掛けた。

月面を震わせる巨大な閃光。

その光は、暗い地下を掘り進む乃木たちの元まで届くほどの、強烈な「生の輝き」であった。



「……貫通したぞッ!!」

先頭を掘っていたバニー兵の叫び。

一点の光が、地下の闇を切り裂いた。敵要塞の心臓部、バイオ怪獣培養槽の真下へと続く穴が開いたのだ。


だが、乃木はその光を見ても、笑わなかった。

地上の爆音、消えていく娘たちの気配。それを、彼は誰よりも敏感に感じ取っていた。


天秤棒を捨て、傍らに置いていた軍服を、汚れた肌に直接羽織る。


「……サーハ。貴公の『義』、確かに受け取った」


乃木は、泥だらけの軍刀を抜き放った。


「総員、襷を締めよ。……これより、浸透戦を開始する。目標、バイオ怪獣の心臓。……一兵たりとも、無駄死にするなッ!!」


乃木の瞳には、亡き二人の息子、そして今散っていったサーハたちの面影が、橙色の炎となって宿っていた。

老将は、先頭を切って光の穴へと飛び込んだ。

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