第3クール☆ 第3話:おかえり、ばかやろー
英雄の証を手にした翌日。師匠は、いつになく落ち着かない様子で、朝から荷物をまとめていた。
「――今日、みんなで、行きたい場所がある」
食卓に集まった八人――アイザルの四人と、サクラビの四人――が、顔を見合わせる。
「行きたい場所って?」
きあが、首をかしげる。
「私の、故郷だ」
師匠の声には、これまでにない、静かな緊張が滲んでいた。
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荒野に着くと、ようたが、その光景を見て、思わず息を呑んだ。
「……ここ」
「うん。……前に、一度、みんなと来たところだよ」
エナガが、静かに答える。
スターだけが、少し離れた場所に立ち止まり、じっと、荒野を見つめていた。
「――スター?」
きあが、不思議そうに声をかける。
「……いや、何でもない」
スターは、いつもの飄々とした調子に戻り、軽く肩をすくめた。だが、その目には、ほんの一瞬、これまで見せたことのない、複雑な色が浮かんでいた。
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村の中心だったであろう場所で、師匠が足を止める。
「――さて」
師匠は、懐から、あの荘厳な光を放つ、小さな証を取り出した。
「今日、これを使う」
「英雄の証……。それって……」
あけびが、緊張した面持ちで尋ねる。
「ああ。……ジャカリザルド」
師匠は、静かに、頷いた。
「死者蘇生の魔法。……一生に一度だけ、使える」
その言葉に、その場にいた全員が、息を呑んだ。
「誰を……」
エナガが、恐る恐る尋ねる。
師匠は、少しの間、黙っていた。それから、静かに笑った。
「――幼馴染だ。どうしようもない、ばか野郎」
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師匠は、乾いた土の上に、静かに手をついた。
「――ジャカリザルド」
短く紡がれた詠唱と共に、師匠の手のひらから、温かい光が、地面に染み込んでいく。
光は、じわじわと広がり、やがて、人の形を象っていった。
「……」
その場にいた全員が、息を殺して見守る。
光が、ゆっくりと収まっていく。そこに立っていたのは――当時のままの姿をした、一人の青年だった。
「……あれ」
青年が、きょとんとした顔で、辺りを見渡す。
「あれ、あれ? ここ、どこだ……? っていうか、俺、なんで寝てたんだ……?」
その声に、師匠の肩が、大きく震えた。
「……マーガリン」
「ん? ……誰だ?」
青年――マーガリンは、師匠の顔を、まじまじと見つめた。
そして、数秒の沈黙のあと――
「――え、待って、まさか、エルライン!?」
「……ああ」
「うわ、老けたな! ってか、なんだその帽子、まだそんなダサいの被ってんの!?」
「……相変わらずだな、お前」
師匠の目から、静かに、涙がこぼれ落ちた。
「なぁにいってんだよばかやろーwww こっちの台詞だっつーの!」
マーガリンが、屈託のない笑顔で、師匠の肩をバンバンと叩く。
「おん、で? 何年経ったんだよ、これ」
「……随分と、経ったよ。色々、あった」
「いや〜〜〜困るねぇ〜〜」
その気の抜けたリアクションに、師匠は、こらえきれず、声を上げて笑い出した。
「うへへ……! ほんと、お前は、変わらないな……!」
久しぶりに見せる、心の底からの笑顔だった。
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その様子を、少し離れた場所から見ていたエナガたちは、驚きを隠せずにいた。
「……師匠が、あんな顔で笑うの、初めて見た」
エナガが、ぽつりと呟く。
「……本当に、嬉しそうですね」
ようたも、静かに微笑んでいた。
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「――で、こっちのちびっこたちは、誰なんだ?」
マーガリンが、興味津々な様子で、こちらを見渡す。
「私の、弟子たちだ。……あと、その隣にいるのが、弟子の弟子、みたいなもんだな」
「へえ、弟子!」いいじゃんいいじゃん、エルラインが人に何か教えてるとか、想像つかねぇけど!」
「うるさいぞ、ばか野郎」
軽口を叩き合う二人の姿は、まるで、何十年もの時が、一瞬で巻き戻ったかのようだった。
「あ、じゃあ俺、あんたたちにいろいろ教えてもらおうかな! エルラインの、若い頃の失敗談とか!」
マーガリンが、悪戯っぽく笑いながら言う。
「おい、余計なことを言うな!」
「なぁにいってんだよばかやろーwww」
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夕暮れの荒野に、賑やかな声が響いていた。かつて何もなかったはずの場所に、久しぶりに、温かい笑い声が満ちていた。
エナガは、その光景を見つめながら、静かに思った。
――ここは、もう寂しい場所じゃない。
風が、優しく、皆の背中を撫でていった。




