↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/79

第3クール☆ 第3話:おかえり、ばかやろー



英雄の証を手にした翌日。師匠は、いつになく落ち着かない様子で、朝から荷物をまとめていた。


「――今日、みんなで、行きたい場所がある」


食卓に集まった八人――アイザルの四人と、サクラビの四人――が、顔を見合わせる。


「行きたい場所って?」


きあが、首をかしげる。


「私の、故郷だ」


師匠の声には、これまでにない、静かな緊張が滲んでいた。



---


荒野に着くと、ようたが、その光景を見て、思わず息を呑んだ。


「……ここ」


「うん。……前に、一度、みんなと来たところだよ」


エナガが、静かに答える。


スターだけが、少し離れた場所に立ち止まり、じっと、荒野を見つめていた。


「――スター?」


きあが、不思議そうに声をかける。


「……いや、何でもない」


スターは、いつもの飄々とした調子に戻り、軽く肩をすくめた。だが、その目には、ほんの一瞬、これまで見せたことのない、複雑な色が浮かんでいた。



---


村の中心だったであろう場所で、師匠が足を止める。


「――さて」


師匠は、懐から、あの荘厳な光を放つ、小さな証を取り出した。


「今日、これを使う」


「英雄の証……。それって……」


あけびが、緊張した面持ちで尋ねる。


「ああ。……ジャカリザルド」


師匠は、静かに、頷いた。


「死者蘇生の魔法。……一生に一度だけ、使える」


その言葉に、その場にいた全員が、息を呑んだ。


「誰を……」


エナガが、恐る恐る尋ねる。


師匠は、少しの間、黙っていた。それから、静かに笑った。


「――幼馴染だ。どうしようもない、ばか野郎」



---


師匠は、乾いた土の上に、静かに手をついた。


「――ジャカリザルド」


短く紡がれた詠唱と共に、師匠の手のひらから、温かい光が、地面に染み込んでいく。


光は、じわじわと広がり、やがて、人の形を象っていった。


「……」


その場にいた全員が、息を殺して見守る。


光が、ゆっくりと収まっていく。そこに立っていたのは――当時のままの姿をした、一人の青年だった。


「……あれ」


青年が、きょとんとした顔で、辺りを見渡す。


「あれ、あれ? ここ、どこだ……? っていうか、俺、なんで寝てたんだ……?」


その声に、師匠の肩が、大きく震えた。


「……マーガリン」


「ん? ……誰だ?」


青年――マーガリンは、師匠の顔を、まじまじと見つめた。


そして、数秒の沈黙のあと――


「――え、待って、まさか、エルライン!?」


「……ああ」


「うわ、老けたな! ってか、なんだその帽子、まだそんなダサいの被ってんの!?」


「……相変わらずだな、お前」


師匠の目から、静かに、涙がこぼれ落ちた。


「なぁにいってんだよばかやろーwww こっちの台詞だっつーの!」


マーガリンが、屈託のない笑顔で、師匠の肩をバンバンと叩く。


「おん、で? 何年経ったんだよ、これ」


「……随分と、経ったよ。色々、あった」


「いや〜〜〜困るねぇ〜〜」


その気の抜けたリアクションに、師匠は、こらえきれず、声を上げて笑い出した。


「うへへ……! ほんと、お前は、変わらないな……!」


久しぶりに見せる、心の底からの笑顔だった。



---


その様子を、少し離れた場所から見ていたエナガたちは、驚きを隠せずにいた。


「……師匠が、あんな顔で笑うの、初めて見た」


エナガが、ぽつりと呟く。


「……本当に、嬉しそうですね」


ようたも、静かに微笑んでいた。



---


「――で、こっちのちびっこたちは、誰なんだ?」


マーガリンが、興味津々な様子で、こちらを見渡す。


「私の、弟子たちだ。……あと、その隣にいるのが、弟子の弟子、みたいなもんだな」


「へえ、弟子!」いいじゃんいいじゃん、エルラインが人に何か教えてるとか、想像つかねぇけど!」


「うるさいぞ、ばか野郎」


軽口を叩き合う二人の姿は、まるで、何十年もの時が、一瞬で巻き戻ったかのようだった。


「あ、じゃあ俺、あんたたちにいろいろ教えてもらおうかな! エルラインの、若い頃の失敗談とか!」


マーガリンが、悪戯っぽく笑いながら言う。


「おい、余計なことを言うな!」


「なぁにいってんだよばかやろーwww」



---


夕暮れの荒野に、賑やかな声が響いていた。かつて何もなかったはずの場所に、久しぶりに、温かい笑い声が満ちていた。


エナガは、その光景を見つめながら、静かに思った。


――ここは、もう寂しい場所じゃない。


風が、優しく、皆の背中を撫でていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。