第3クール☆ 第2話:大魔道士大会
村を訪れてから、しばらく経ったある日。師匠が、一枚の招待状を手に、いつになく真剣な顔で戻ってきた。
「――世界大会だ」
「世界、大会……?」
エナガが、首を傾げる。
「4人1組のパーティー制。優勝チームの中から、最も貢献した一人に、"英雄の証"が与えられる」
「英雄の証……」
「うへへ、聞いたことあるだろ。……あれを持ってれば、一生に一度だけ、特別な魔法が使える」
師匠の目に、これまでにない静かな光が灯る。
「出るぞ、四人で」
「「「――!」」」
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大会当日。会場には、世界各地から集まった、名だたる猛者たちがひしめいていた。
「うわぁ……前の大会とは、レベルが違う……」
あけびが、思わず息を呑む。
観客席の隅には、サクラビの四人――ファード、きあ、ようた、スター――が、応援に駆けつけていた。
「あけびさーん!! 頑張ってー!!」
ファードの声援が響く。
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第一試合
対戦相手は、統率の取れた、正統派の攻撃チームだった。
「行くぞ」
チアの一声で、四人が散開する。あけびが前衛で敵の攻撃を受け止め、エナガが後方から援護、チアが的確に急所を突き、師匠は――ただ、ゆったりと後方に立っていた。
「――くらえ!」
相手の主砲が、渾身の一撃を放つ。だが、それが届く前に、あけびの棒が、正確にその軌道を弾き返していた。
「な……!」
「――お前らの動き、全部見えてるよ」
エナガが、不敵に笑う。
「――シャープレジャー」
チアの一撃が、相手チームの陣形を、瞬時に崩壊させた。
「え……もう、終わり……?」
呆然とする相手選手たちの前で、審判が試合終了を告げる。
「勝者、アイザル!」
観客席から、大歓声が上がった。
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第二試合
準々決勝。相手は、これまでとは一線を画す、洗練された連携を見せるチームだった。
「――厄介だな」
チアが、珍しく表情を引き締める。
相手は、四人がかりで一人を集中攻撃する、徹底した戦術を取ってきた。狙われたのは、あけびだった。
「くっ……!」
四方から同時に浴びせられる攻撃。あけびの防御が、少しずつ、削られていく。
「あけび!」
エナガが叫び、援護に入ろうとする。だが、その瞬間――
「――待って」
あけびが、静かに、それを制した。
「これくらい……なんとかなる」
あけびの目に、光が宿る。かつての「連撃だぁぁぁ!!!!」の頃から、確実に磨かれた、実戦の勘。
「――エクス・イグニション!」
四方からの攻撃を、正確に読み切り、あけびは、その隙間を縫うように反撃を叩き込んだ。
「な……!?」
一人、また一人と、相手選手が崩れ落ちていく。
「――やった……!」
あけびの勝利に、観客席のサクラビたちも、拳を突き上げて喜んだ。
「あけびさん、やっぱりすごい……!」
ファードが、目を輝かせながら呟いていた。
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決勝戦
最後に立ちはだかったのは、前回大会の優勝チーム。四人全員が、世界屈指の実力者揃いだった。
「――ここからが、本番だな」
チアが、静かに杖を構える。
開始の合図と同時に、相手チームの四人が、一斉に散開した。統率の取れた包囲陣形。これまで対戦してきたどのチームよりも、隙がなかった。
「くっ……!」
先陣を切ったあけびの一撃が、相手の防御魔法にあっさりと弾かれる。エナガの光線も、精密に計算された回避軌道の前に、空を切った。
「まだまだ、こんなもんじゃないでしょ、あんたたち!」
エナガが叫びながら、再び杖を構え直す。だが、相手の連携は、まるで一つの生き物のように、寸分の隙もなく機能していた。
じりじりと、押し込まれていく。あけびの額に、汗が滲む。
「……くっ、はぁ……!」
十分、二十分――膠着状態が続く。互いに一歩も譲らない、消耗戦。
「――このままじゃ、埒があかない」
チアが、荒く息をつきながら呟く。
「……エナガ、あけび」
「わかってる」
エナガが、覚悟を決めたように頷いた。
三人は、互いに目配せを交わす。
「――行くわよ」
エナガが静かに、体に力を込める。あけびとチアも、それに続いた。
光が三人を包み込む。紫の帽子、燃えるようなオレンジの閃光、深い緑と青のオーラ――デラードの姿が、会場に姿を現した。
「な……! デラードだと……!?」
相手チームに、初めて動揺が走る。観客席からも、どよめきが上がった。
「うおおお!! すごい、あけびさんたち、あの姿……!」
ファードが、身を乗り出して叫ぶ。
デラードの三人は、もう、言葉を発さない。ただ、静かに、次の一手へと踏み出していった。
「――」
あけびが、静かに姿勢を低くする。体の内側から、これまでにない力が、じわりと滲み出していた。
「――ライボルトサンダー」
短い詠唱と共に、あけびの体が、雷そのもののように、瞬時に跳び上がった。空気を切り裂く速度。目で追うことすら、困難なほどの一撃。
「なっ……!」
相手チームの一人が、反応する間もなく、あけびの棒による渾身の一打を受け、吹き飛ばされていく。
三人がかりの包囲陣形の一角が、一瞬にして崩れた。
「――今だ!」
エナガの声にならない意志が、詠唱に乗る。
「――ウィンズァイヤー」
圧倒的な密度の風が、天から降り注ぐ。逃げ場のない一撃に、残る相手選手たちが、次々と体勢を崩していった。
だが、相手チームの主将だけは、それでもなお踏みとどまっていた。
「――さすがだな。だが、まだだ」
主将が、最後の力を振り絞り、渾身の反撃を放つ。狙われたのは、まだ着地しきっていない、あけびだった。
「あけび!」
エナガが叫ぶ。だが、間に合わない。
その時――
あけびの背中に、これまで見たことのない、天使のような翼が広がった。静電気を纏った、眩い光の翼。
「――バモニ」
翼が、主将の一撃を、正面から受け止める。防御力と機動力を同時に纏った、進化した姿。
「な……! あの、頼りない翼が……!」
かつて「ダサっ!」と笑われた、あの技の面影は、もうどこにもなかった。
「――終わりだ」
あけびは、翼の推進力を使い、そのまま主将の懐へと一気に踏み込んだ。棒が、正確に、急所を捉える。
「ぐ……!」
主将の体が、大きくよろめいた。
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その光景を、少し離れた場所から、師匠が静かに見つめていた。
「……いいぞ」
師匠の目が、これまでにない、静かな熱を帯びていた。
主将は、なおも立ち上がろうとしていた。歴戦の猛者としての、意地だった。
「――まだ、終わらせん……!」
その執念に、師匠が、初めて、一歩前に出た。
「――よく粘った」
杖を、静かに構える。
「だが、ここまでだ」
師匠の周囲に、これまでとは異なる、赤みを帯びた魔力が渦を巻き始める。それは、銀河のような広がりではなく、もっと集約された、一点に凝縮していく、鋭い輝きだった。
かつて、あけびが最初に見せてくれた"火を灯す"という発想。それを、師匠は、自分の中の一番深い記憶――村人たちの、無数の魂の欠片――と結びつけていた。
「――シャルド・イグニション」
短く紡がれた詠唱と共に、凝縮された光が、一直線に放たれた。
「――!!」
主将の防御ごと、その一撃は、貫いていった。爆発的な閃光が、会場全体を、一瞬、白く染め上げる。
やがて、光が収まった時――相手チームの主将は、静かに、その場に倒れ伏していた。
「……」
審判が、慌てて駆け寄り、容態を確認する。
「――しょ、勝者、アイザル!!」
その声が響いた瞬間、会場中から、割れんばかりの歓声が沸き起こった。
デラードの三人は、静かに、力を緩めていく。紫の帽子が、オレンジの閃光が、緑と青のオーラが、少しずつ、元の姿へと戻っていった。
「……終わった、のよね」
エナガが、感情の戻った声で、静かに呟く。
「……ああ」
チアも、荒く息をつきながら、頷いた。
あけびは、その場に、へなへなと座り込んだ。
「勝った……! 本当に、勝った……!」
その様子を見つめながら、師匠は、静かに、微笑んでいた。
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表彰式。優勝トロフィーを掲げるアイザルの四人に、割れるような拍手が送られる。
「そして、今大会のMVPは――」
司会者が、高らかに告げる。
「――エルライン選手!」
その名前に、会場がどよめいた。
「……エルライン……?」
エナガが、ぽかんとした顔で、隣のあけびを見る。
「え、師匠の、名前……?」
あけびも、驚いたように目を丸くしていた。
チアも、無言のまま、初めて聞くその名前を、噛みしめるように見つめていた。
歓声が、さらに大きくなる。
師匠は、少し照れくさそうに、頭をかいた。
「うへへ……こういうの、慣れないな」
主催者から、荘厳な光を放つ、小さな証が手渡される。
「――英雄の証、授与」
師匠は、それを、静かに、両手で受け取った。
その目には、これまで見たことのない、深い感慨が宿っていた。
観客席で、サクラビの四人が、大きく手を振っていた。
「師匠さーん!! おめでとうございまーす!!」
その声を聞いて、師匠は、いつもの調子で、大きく手を振り返した。
「うへへ! ありがとよ!」
だが、その手のひらの中で握られた証を、師匠は、誰よりも強く、大切そうに握りしめていた。
これでようやく、果たすべき約束に、手が届く。




