☆☆重要番外編 神風
魔王討伐の、その裏側で。
師匠が、魔王と対峙していたあの瞬間――誰も気づかないところで、一つの風が、静かに戦場に舞い戻っていた。
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数日前、ザードの気配を追い続けていたファードは、ようやく、その正体の一端に辿り着いていた。
「……ここまで、来たか」
廃墟の奥、古い記録の断片を前に、ファードは、静かに息を整える。
「あけびさんたちの元に、戻らなきゃ」
だが、ここで正体を明かして戻れば、追ってきたザードの目を、パーティー全体に向けさせてしまうかもしれない。ファードは、しばらく考えた末、一つの選択をした。
「――このまま、姿を見せずに、みんなを支えよう」
風になり、気配を消したまま、パーティーの後を追う。
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そして、あの日。空が赤く染まり、魔王の号令が響いた、その瞬間。
ファードは、既に、戦場の片隅に、風として溶け込んでいた。
「……」
弟子たちが、隔離空間へと引き込まれていくのを、ファードは、静かに見送っていた。あの中に入っていけば、正体を現さざるを得ない。それよりも――
「――師匠さんの方が、危ない」
ファードの視線は、魔王と対峙する師匠へと向けられていた。
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「思考は現実化する」
師匠が、そう言い放った、あの瞬間。
震える手のまま、それでも前に出ようとする師匠の背中に、そっと、風が寄り添った。
「――」
誰にも見えない、誰にも気づかれない、微かな追い風。師匠の魔力が、ほんの少しだけ、軽くなる。
「……ん?」
師匠が、一瞬、違和感に眉をひそめた。だが、それを深く考える余裕はなかった。魔王が、既に、動き出していたから。
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戦いが激化するにつれ、師匠の消耗も、激しくなっていく。
「……はぁ……っ」
肩で息をする師匠の周りに、ファードは、絶えず、風を送り続けていた。傷を癒すほどの力はない。ただ、少しでも、魔力の巡りを助けるように。少しでも、疲労を吹き飛ばすように。
「――お前らが命を救われた、あの技だ」
師匠が、ギガディヴォイドを放とうとした、その瞬間。ファードは、持てる力の全てを、風に変えた。
体中の魔力が、風となって、師匠の背中を押す。まるで、後ろから、力いっぱい、押し出すように。
「――ギガディヴォイド」
放たれた光が、これまでのどの一撃よりも、遥かに強く、遠くまで届いた。
師匠自身、その威力の一部が、自分だけの力でないことに、微かに気づいていた。だが、それを確かめる暇はなかった。
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魔王が倒れ、戦いが終わった、その直後。
ファードは、力を使い果たし、ふらふらと、姿を現した。
「……ぼく、間に合った、かな」
その姿を、一番最初に見つけたのは、へたり込んでいたあけびだった。
「――ファード!?」
「あけびさん……。ただいま、です」
「お前、どこに……! ずっと、心配して……!」
「ごめんなさい。……色々、あって」
ファードは、疲れ切った顔で、それでも、少しだけ笑った。
「後で、ちゃんと、全部話します。……今は、少しだけ、休ませてください」
そう言うと、ファードは、その場に、静かに倒れ込んだ。
「ファード!」
駆け寄るあけびの声が、戦いの終わった静かな戦場に、響き渡った。
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後になって、師匠は、あの時のことを、ぽつりと呟いた。
「……あの時、確かに、誰かが、背中を押してくれた気がしたんだよな」
その言葉を聞いたエナガが、少し離れた場所で眠るファードを見て、静かに微笑んだ。
「……そうかもね」
誰にも見えない風は、確かに、そこにいた。そして、これからも、静かに、みんなの背中を押し続けるのだろう。
ノシ




