番外編 ダブルマスタァ〜
「師匠!」
きあの元気な声が、庭に響いた。
「師匠様だろ! ふざけるなぁ!」
ルートが、反射的に叫ぶ。
「えっ」
きあが、目を丸くする。
「……師匠様!」
「そうだ、そう……」
ルートが、満足げに頷く。
「……ん?」
数秒の沈黙。
「……俺のこと?」
「そうだよ?」
「…………」
ルートの顔が、じわじわ赤くなる。
「な、なんで俺なんだ……!」
「だって師匠じゃん!」
「いや、そういう意味じゃなくてだな……!」
「え、なんの話?」
きあが、心底不思議そうに首を傾げる。
「わたし、チアさんの弟子でしょ? だから、チアさんが『師匠』で合ってるよね?」
「……あ」
ルートの顔から、みるみる血の気が引いていく。
「……勘違いした」
「なにを?」
「……いや、こっちの話だ」
「ふーん?」
きあは、特に気にする様子もなく、また元気に駆けていった。
「師匠! 今日のご飯なに!?」
「あー! それも俺のことか! ……そうだよな、そうだよな! 分かってた!」
一人、庭先に取り残されたルートは、真っ赤な顔のまま、両手で顔を覆っていた。
「……うわあああああ」
その様子を、少し離れた窓から見ていたエナガとあけびが、顔を見合わせて笑いを堪えていた。
「……盛大に自爆したわね」
「うん、見てて可哀想になってきた」
「――全部聞こえてるぞ!」
ルートの叫びが、家中に響き渡った。
その日以来、きあが「師匠」と呼ぶたびに、ルートは、一瞬だけ、期待するように顔を上げるようになった。
そして、それが自分宛てじゃないと分かるたびに、ほんの少しだけ、しょんぼりするようになった。
ノシ




