第35話:因縁の再会
弟子たちが、それぞれの世界に飲み込まれていく光景を、師匠は、ただ静かに見送っていた。
「……行ったか」
「――ああ。行かせた」
低く重い声が、闇の奥から響く。師匠が振り返ると、そこには、これまで気配だけしか感じたことのなかった存在――魔王が、静かに立っていた。
「久しぶりだな」
「……随分と、余裕そうじゃないか」
師匠が、静かに応じる。
「さて…お前の弟子たち。生きて帰れるだろうな?」
魔王が、口の端を歪める。
「――ニヤァ……」
「思考は現実化する」
師匠は、迷いなく答えた。
「生きて帰ってくる。そうやって考えてる限り、あの子たちは生きる」
「随分と、都合のいい理屈だな」
「都合がいいくらいで、ちょうどいいんだよ。……あの子たちを、信じない選択肢なんて、私にはないからな」
魔王が、面白そうに師匠を見つめる。
「そうか……。なぁ……。お前、今、猛烈に手が震えてるの……見えてるぞ……?」
「……」
師匠は、自分の手のひらを見た。確かに、指先が、かすかに震えている。
「怖くないかない」
師匠は、静かに笑った。
「武者震いだ」
魔王が、低く笑い声を漏らす。
「その強がり、いつまで持つかな」
「さあな。……お前が思ってるより、私は頑固だぞ」
師匠は、震える手のまま、静かに杖を構えた。
「――さて」
魔王の気配が、一段と重くなる。
「お前の弟子は、四人とも、それぞれの弱さと向き合っている。……乗り越えられなければ、そのまま朽ちるだけだ」
「乗り越えるさ」
師匠は、迷いなく言い切った。
「あの子たちは、私が育てた。……いや、違うな」
一瞬、言葉を切る。
「あの子たちが、勝手に育った。私はただ、その隣にいさせてもらっただけだ」
「……感傷的だな」
「うへへ、悪いかよ」
いつもの緩さが、ほんの少しだけ、声に戻る。だが、その目に宿る光は、これまでにないほど、鋭かった。
「……さあ、始めるか」
師匠が、静かに一歩踏み出す。
「終わらせに来た。お前の全部を」
魔王の姿が、闇の中で、ゆっくりと輪郭を持ち始める。
「――面白い。やってみろ」
二つの気配が、真正面からぶつかり合う。震える手のまま、師匠は、静かに戦いへと足を踏み出していった。




