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第32話:あけびの世界



光に包まれた次の瞬間、あけびは、見知らぬ空間に立っていた。


「……ここ、どこ……?」


周りは、灰色の靄に覆われている。仲間の姿は、どこにも見えない。


「エナガ! ルート! 師匠!」


叫んでも、返事はない。ただ、自分の声が、虚しく反響するだけだった。


「……」


不安が、じわりと胸に広がっていく。その時――


「――独りは、慣れてるだろう?」


声がした。振り向くと、そこには――もう一人の、あけびが立っていた。


「な……」


「驚くことないだろ。君は僕だ。僕は君だ」


幻影のあけびは、いつもと同じ顔をしているのに、その目には、何の温かみもなかった。


「僕は誰も信じない。信じたところで裏切られるだけだ」


「なに言って……」


「この世界を生きる主人公は僕。君なんて……仲間なんて必要ない。早くこの世界から消えろ」


あけびの背筋が、ぞっと冷えた。


「……君は誰なの……? 答えて……答えろよ……! じゃないと……! たたかうぞ……!」


震える声で棒を構える。だが、幻影のあけびは、それを鼻で笑った。


「戦う? 何のために。仲間なんて、都合よく使われて、いつか捨てられるだけの存在だろう」


「ちがう……!」


「じゃあ聞くけど、君は本当に、みんなに必要とされてるのか? 強いエナガ、頭のいいルート、規格外の師匠……その中で、君だけが、何も持ってない」


「……っ」


一瞬、言葉に詰まる。だが、すぐに、あけびは首を振った。


「なっ……!? 仲間は大切だろ!? 家族も!! あけびも!!」


自分の名を、自分で叫ぶ。それは、幻影への反論であり、同時に、自分自身への確認でもあった。


「僕は、誰かの代わりじゃない。あけびは、あけびだ! みんなと一緒だから強くなれた。それの何が悪い!?」


幻影のあけびの表情が、初めて、わずかに歪んだ。


「……お前は、それでいいのか。いつか、みんなに置いていかれても」


「置いていかれない! だって、僕は――」


あけびは、拳を強く握りしめる。


「僕は、みんなを守るって決めたんだ。誰にも言われなくたって、それは変わらない」


灰色の靄が、少しずつ、揺らぎ始める。


「……」


幻影のあけびは、何も言わず、じっとあけびを見つめていた。


「独りぼっちの僕なんて、僕は、要らない」


あけびが言い切った瞬間、幻影の姿が、光の粒子となって崩れていく。


「――僕は、あけびだ」


その一言と共に、靄が晴れていった。


視界の先に、見慣れた戦場の光景が広がっている。あけびは、大きく息を吸い込んだ。


「……戻れた」


拳を握りしめ、あけびは、まだ見ぬ仲間たちのもとへと、駆け出していった。

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