第30話:懐かしい景色
その日は、何の前触れもなく訪れた。
朝食の途中、突然、空が赤く染まった。
「な……!」
エナガが、箸を落として立ち上がる。
「これ……」
「まさか」
ルートも、顔色を変えて窓の外を見た。あの日、第2話で見たのと同じ、不吉な赤に染まった空。
「――エナガ」
低く、重い声が、家全体に響き渡った。声だけが、まるで空間そのものに直接語りかけてくるようだった。
「久しぶりだな。……大きくなった」
「この声……!」
エナガの体が、びくりと強張る。
「魔王……!」
師匠が、椅子を蹴立てて立ち上がった。表情から、一瞬で緩さが消える。
「お前、いい加減にしろよ」
「久しぶりだな、世界1位。……お前の弟子、随分と立派に育てたじゃないか」
「……何が目的だ」
「決まっている」
声の温度が、一段と冷たくなる。
「そろそろ、終わらせようと思ってな。……全員で来い。逃げ場は与えない」
そう言い残すと、声は、ふっと消えた。空の赤も、少しずつ元の色に戻っていく。
しばらく、誰も何も言えなかった。
「……来た、か」
師匠が、静かに呟く。
「これが、最後の戦いになるだろうな」
「師匠……」
エナガが、震える声で師匠を見上げる。
「……行くしかない、よね」
「ああ」
師匠は、いつになく真剣な目で、その場にいる全員を見渡した。あけび、エナガ、ルート、そして、まだ幼い弟子たち――ようた、きあ、スター、そして偽りのファード。
「――みんな、聞け」
その声には、これまでにない重みがあった。
「これは、お前たちが今まで積み上げてきたもの全部を賭けた戦いになる。怖くても構わない。震えても構わない。……ただ、逃げるな」
きあが、ごくりと唾を飲む。ようたは、震える手をぎゅっと握りしめた。スターだけが、いつも通り、落ち着いた表情で頷いていた。
「私たちだけの戦いじゃない。……これまで積み重ねてきた、全部の絆をかけた戦いだ」
師匠は、一度大きく息を吸い、そして、静かに告げた。
「――行くぞ。魔王を、終わらせに」
その言葉に、全員が、力強く頷いた。
家を出る前、エナガが、ふと空を見上げる。
赤く染まっていた空は、今はもう、いつも通りの青に戻っていた。だが、その静けさが、これから始まる嵐の前触れであることを、誰もが知っていた。
一行は、静かに、しかし確かな覚悟を胸に、歩き出した。
魔女エナガ→エナガ
→執筆時の負荷のため
呪文の表記を>><<から「ーー」へと変更
→執筆時の負荷のため
表記変更よろしくお願いします
ノシ




