第29話:違和感
いつも通りの朝が、また始まっていた。
「ファード、今日も特訓する?」
あけびが、庭先で棒を振りながら声をかける。
「はい、お願いします!」
ファードが、いつも通りの笑顔で駆け寄ってくる。二人は連携の練習を始めた。息はぴったり合っている。だが、それを少し離れた場所から見ていたきあが、じっと目を細めていた。
「……」
「どうしたの、きあちゃん」
隣にいたスターが、興味深そうに尋ねる。
「うーん……なんて言うか、ファード、最近ちょっと変な感じがするの」
「変って?」
「んーと……返事は普通なんだけど、なんか、ワンテンポ遅れてる気がするっていうか。あと、目が、あんまり笑ってない気がする」
スターは、腕を組んでファードの様子を観察した。
「……確かに、言われてみれば」
「でしょ!? わたしだけじゃないよね!?」
「まあ、俺は先読みが得意なだけで、そういう機微は専門外だけどな」
「もー、頼りにならないなぁ」
---
昼食の席。ようたが、控えめに料理を取り分けていた。
「ファードさん、お代わりいります?」
「あ、ありがとう。……いる」
ファードが、少し間を置いて答える。
「……?」
ようたが、小さく首を傾げた。
「どうしたの?」
「あ、いえ、なんでも……」
ようたは、それ以上何も言わなかった。ただ、気を遣いすぎる性分ゆえに、その小さな違和感を、誰かに言い出せずにいた。
---
夕方、洗濯物を取り込んでいたエナガが、ふと庭を見ると、ファードが一人、ぼんやりと空を見上げていた。
「……ファード?」
「あ、エナガさん」
「何見てるの?」
「……いえ、なんとなく」
いつもなら、もっと元気よく話しかけてくるはずのファードが、今日はどこか静かだった。
「……なんか今日、大人しいね」
「そうですか? いつも通りのつもりですけど」
「ふうん」
エナガは、少しだけ首を傾げたが、それ以上は追及しなかった。
---
夜、きあは、一人で庭に出て、月を見上げていた。
「……絶対おかしいもん」
呟く声には、確信めいた響きがあった。
「ファード、あなた、本当にファード?」
問いかけに、答える者はいなかった。ただ、夜風だけが、静かに吹き抜けていくだけだった。
きあは、しばらくその場に立ち尽くしたあと、小さく決意したように頷いた。
「……今度、ちゃんと確かめる」
その夜、彼女は、誰にもまだ、この違和感を打ち明けていなかった。




