第28話:動き出す影
魔王軍の本拠地、深い闇に包まれた広間。
三つの気配が、そこに集っていた。
「――石を奪還されたそうだな」
低く重い声が、闇の中から響く。戦闘部隊を束ねる、D・ZAMの長だった。
「情けない。うちの精鋭が、あっさりやられるとはな」
「言葉が過ぎるぞ、ザラム」
答えたのは、粘つくような声。D・ZEELの長だった。
「力だけで押し通す時代は、もう終わりだ。……そもそも、あの子供たちがここまで育ったのは、お前たちが正面からやり合ってきたせいでもある」
「なんだと」
「事実を言ったまでだ。私のところは、静かに、確実に事を進めてきた。……見られては困るものを、見られてしまったがな」
D・ZEELの長の視線が、闇の奥へと向けられる。そこには、記憶を封じたはずの――だが、今も密かに監視を続けている、あの少年の姿が思い浮かんでいた。
「……あの記憶封じ、本当に効いているのか」
「効いている。今のところは、な」
三人目の声が、静かに割って入った。D・ZARDの長。声には、感情の起伏がほとんどない。
「石は奪われたが、収集したデータは十分だ。……解析は進んでいる」
「解析、ね」
ザラムの長が、鼻を鳴らす。
「お前のところは、いつもそればっかりだ。戦いもせず、じっと見てるだけで、何の役に立つ」
「役に立つとも」
ザードの長の声に、初めて、わずかな熱がこもった。
「あの子の存在そのものが、我々にとって最大の資産だ。……あれほどの適合率は、これまでの試作体では見られなかった」
「適合率……?」
「気にするな。ザラム、お前は理解しなくていい」
沈黙が落ちる。三者三様の気配が、闇の中で交錯した。
「――で。次はどうする」
ジュールの長が、話を進める。
「石は取り返された。だが、あちらの戦力は、想定以上に育っている。三人がかりで一つの部隊を壊滅させる程度の力は、既に持っているようだ」
「……厄介だな」
「厄介だからこそ、な」
ザードの長が、静かに言葉を継いだ。
「これ以上放置すれば、我々にとって都合の悪い真実が、向こうから明らかになるかもしれない。……時は、そう長くない」
闇の奥、まだ姿を見せぬ存在に向かって、三人が同時に頭を垂れる。
「――魔王様。ご指示を」
答える声は、ひどく静かだった。
「……好きにしろ。だが」
そこで、一瞬の間があった。
「あの子だけは、私が直接相手をする」
三人の長が、無言のまま頭を下げる。
闇は、再び静寂に包まれた。だが、その静けさの奥で、確実に何かが、動き出そうとしていた。
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その頃、遠く離れた家の中。何も知らない一行は、いつも通りの朝を迎えていた。
「今日は何しようか!」
あけびの明るい声が、朝の食卓に響く。
平和な日常の裏で、確実に、時間が刻まれ始めていた。




