第27話:風のように
夕食を終え、みんなが寝静まった頃。ファードは、一人、庭先で夜風にあたっていた。
「……眠れないのか」
背後から声がかかる。振り返ると、ルートが、静かに立っていた。
「あ、チアさん。……なんとなく、目が冴えちゃって」
「そうか」
ルートは、ファードの隣に腰を下ろす。二人の間に、しばらく沈黙が流れた。
「……なあ」
先に口を開いたのは、ファードだった。
「チアさんって、僕が記憶を戻す魔法使った時、変な顔してましたよね」
「……」
「あの時、何か、思い出したこと、あったんじゃないですか」
ルートの肩が、わずかに強張る。
「……何を言ってる」
「ごまかさなくても大丈夫です。僕、風の魔法使いだから、なんとなく、空気の揺れとか、感じ取れちゃうんです」
「……」
「チアさんの周り、あの時からずっと、変な緊張感があります。誰かに、言えないことがあるみたいな」
ファードの言葉に、ルートは長い沈黙で答えた。夜風だけが、静かに二人の間を通り過ぎていく。
「……お前には、関係ないことだ」
「そうですか」
ファードは、それ以上追及しなかった。ただ、少しだけ寂しそうに笑う。
「……でも、もし何かあった時は、頼ってくださいね。僕、これでも役に立てると思うので」
「……ああ」
ルートは、それだけ答えて、立ち上がった。
「先に休む。お前も、あんまり夜更かしするなよ」
「はい。おやすみなさい」
ルートの背中が、家の中へと消えていく。
ファードは、しばらくその場に座ったまま、夜空を見上げていた。
「……チアさん、絶対何か隠してる」
呟いた声は、誰にも届かなかった。
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その夜遅く。
家の中、静まり返った廊下を、そっと歩く影があった。ファードだった。
自分の部屋の前で、少しの間立ち止まる。
「……ごめんなさい、みんな」
小さく呟くと、彼は、そっと窓を開けた。
夜風が、部屋の中に吹き込んでくる。ファードは、目を閉じ、静かに息を吐いた。
体が、ふわりと風に溶けていく。
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翌朝。
「あれ、ファードは?」
あけびが、朝食の席を見渡しながら首を傾げる。
「さあ。まだ寝てるんじゃない?」
エナガが答えるが、そこへ、いつも通りの様子でファードが顔を出した。
「おはようございます!」
「おはよう! 昨日、夜更かししてなかった?」
「え、そんなことないですよ」
にこにこと笑うファードに、あけびは特に違和感を覚えなかった。
だが、その様子を、少し離れた場所からじっと見つめる視線があった。
きあだった。
「……ねえ、ファード。今日ちょっと、いつもと違う気がする」
「え? そう?」
「うーん、なんて言うか……声のトーンとか、目の動きとか」
「気のせいだよ、きあちゃん」
ファードは、いつもと変わらない笑顔で答える。だが、その言葉は、いつもより少しだけ、平坦だった。
食卓は、いつも通りの賑やかさを取り戻していく。
だが、その中心にいるファードだけが――本当のファードではないことに、まだ誰も、気づいていなかった。




